独り、想う。
……僕が、彼女の待つあの家に戻ることはなかった。
これ以上彼女と暮らし続けることは、お互いのためにならないと感じたからだ。
あの日僕は、歩きながら色々なことを考えた。
……その結果、これからは自分一人の力で生きていくべきだと思ったんだ。
彼女が僕と一緒にいてくれたのは、両親が頼んだからだとノートに書いてあった。
……僕はもう、大人になった。
彼女に守ってもらわなくても、一人で生きていける。
……そう考え、彼女に何も告げることなく森へと戻った。
おぼろげな記憶を頼りに、昔家族で暮らしていた家を探す。
……それは、変わらずそこにあった。
しばらく人が住んでいなかったから荒れてはいたけれど、掃除をすればなんとでもなる。
もちろん、安全な場所ではないというのはわかっていた。
……でも僕は、命の安全よりも心が楽な場所を選ぶことにしたんだ。
彼女の近くにいればいるほど、この気持ちは大きくなってしまう。
……だけど、僕の気持ちが受け入れられることはない。
それは、僕にとっても、彼女にとっても辛いことだから。
……離れることになっても、きちんと別れの言葉を言うべきだったのかもしれない。
そんな風に後悔することが、ないわけじゃなかった。
……僕の瞳に焼き付いた彼女の表情は、泣いている姿だったからね。
でも、一度戻れば別れがたくなってしまうのは自分でもわかってる。
……だから、仕方のないことだったんだ。
こうして、一度広がった僕の世界はまた狭くなってしまった。
僕は、彼女と自分自身の気持ちから逃げ出したまま、数年の時を一人で過ごしたのだった――――――――――。