愛のカタチ
「……話があるんだけど」
「うん、なあに?」
翌日、覚悟を決めた僕は彼女に話しかけた。
ソファで寛いでいた彼女の隣に、腰を下ろす。
「……透花、君が好きだ。愛している」
「……うん」
「……僕のものに、なってほしい」
僕は、彼女に二度目の告白をした。
焦りすぎて、約束した花を用意するのは忘れたけど……。
今も僕の気持ちは変わらないということを、一刻も早く知ってもらいたかったんだ。
「……ごめんなさい」
彼女は苦しそうに、そう呟いた。
……以前告白した時とは違い、悲しそうな表情をしている。
「……それは、僕がまだ君にとって子どもだから?」
「……いいえ、違うよ。理玖はもう立派な大人だよ。だから、昨日あの話をしたんだもの」
「……じゃあ、僕のことが嫌い?」
「……そんなわけない。私、理玖のこと大好きだよ」
「……それなら、どうして?」
「……私は、理玖が思うような人間じゃないから。あなたとは一緒に生きられない」
それだけ言うと、彼女は俯いてしまう。
……長く一緒にいたけど、彼女のこんな弱った姿を見るのは初めてだった。
「……君のことなら、全部知ってる。昨日、父さんから託されたノートを読んだんだ」
「え……?」
「……そこには、君に関する記述もあった。君の本来の立場のこと、今までどういう生き方をしてきたのか、なぜ歳をとらないのか……」
「………………………………!!」
僕の言葉を聞いて、彼女は肩を揺らした。
……そう、彼女は歳をとらないんだ。
僕と初めて出逢った時から、見た目が全く変わっていない。
老けるのが遅いとか、そういうレベルの話じゃない。
……彼女の体の時間は、止まっているのだ。
怪我をすれば血も出るし、髪も爪も伸びる。
だけど、歳をとることはない。
……あと数年もすれば、僕の方が見た目は大人になるのだろう。
「……でも、それを読んでも僕の気持ちは何も変わらなかった。君を愛してる」
「理玖……」
「……君の長い時間の、一部でいいんだ。それを、僕にくれないか」
「………………………………ごめんなさい」
長い沈黙の後に彼女が吐き出したのは、拒絶の言葉だった。
「……理由を、聞かせてほしい」
「……私は、人並みの幸せをあなたに与えてあげられないから」
「……どういうこと?」
「……こんな体じゃ、あなたとの子どもは望めない」
「……僕は、君がいればそれだけでいいよ。他のものはいらない」
「……理玖、私もあなたを愛している」
「……え?」
「……愛しているからこそ、あなたには幸せになってほしい。普通の女性と結婚して、あなたのお父さんとお母さんのような素敵な家庭を築いてほしいの」
「……僕は、そんなものは望んでない。君がいなければ、幸せになんてなれない」
「……ごめんなさい、理玖。私には、誰かを愛する資格なんてないの。わかって……。」
彼女の瞳から、透明な雫が流れ落ちる。
それは、彼女が僕に見せた初めての涙だった。
……そんな表情で言われたら、僕にはどうしようもないじゃないか。
「……ごめん、少し頭を冷やしてくる」
僕はそれだけ言うと、ソファから立ち上がった。
そして家を出ると、宛てもなく歩き始めたのだった――――――――――。