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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十一話 カリンの花を君にあげる
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明かされた真実

「理玖、誕生日おめでとう」

「……ありがとう」


 それは、僕が十五になった夜のことだった。

 彼女がご馳走を用意して、僕を祝ってくれたんだ。

 僕は食べられない物が多いから、あれだけの料理を用意するのは大変だったと思うよ。

 その気持ちが嬉しくて、僕は小食にも関わらず頑張って食べていた。


「……もう、立派な大人だね」


 ……そう、僕はこの三年間で成長した。

 声も低くなったし、身長も彼女より高くなった。

 外の世界で彼女以外の人と関わることで、精神的にも大人になったと自分でも思う。


「……そろそろ、あなたのご両親について話さなければならないね」


 彼女はゆっくりと、父さんと母さんについて話し始めた。

 あの頃、魔法使い界では二つの派閥があったらしい。

 一つは、これからも人目につかずにひっそりと暮らしたいと願う穏健派。

 僕の両親は、こちらに属していたようだ。

 ……そしてもう一つが、研究により魔力を復活させ、僕たちを迫害していた人間たちに一泡吹かせてやろうと考える過激派だ。

 二つの派閥は話し合いを重ねたが、それはいつも平行線で終わったそうだ。

 ……僕の両親も、その話し合いに参加していたから帰ってこない日が多くなったのか。

 だけどある日、この均衡は突如崩れる。

 ……過激派が、自分たちの意に添わない穏健派を始末することに決めたのだ。

 父さんが僕にノートを託したのは、多分この時期だ。

 ……あの日二人は、もうあの家には戻れないことをわかって出て行ったんだろうな。


「どうして父さんと母さんは、そんな大切なことを僕には言わなかったの……?」

「……あなたが、大切だからだよ」

「え……?」

「……あなたを、争いに巻き込みたくなかったんだよ」


 ……でも、過激派の魔の手は僕たちにも迫っていた。

 もし、おばさんがあの時来てくれなかったら……。

 両親と仲良くしていたおばさんだから、きっと穏健派だったんだろう。

 とても穏やかで、優しいおばさんだったし……。

 おばさんも、ちゃんと逃げられているといいんだけどな……。


「……父さんと母さんは、死んだんだね」

「……うん。確証はないけれど、恐らく生きてはいないと思う」

「……そう。わかった、話してくれてありがとう」

「……理玖、怒っている?」

「……どうして?」

「……こんなに大切なことを、今まで黙っていたから」

「……別に、怒ってないよ。昔の僕じゃ、この話を聞いてもうまく飲み込めなかったと思うし。それに、大方父さんに頼まれたんだろう? 僕が大人になったら話してほしいって」

「うん、それはそうなのだけれど……」

「……じゃあ、君が気にすることなんて何もない。さあ、続きを食べよう。せっかくの料理が冷めてしまうよ」

「……ありがとう、理玖」


 僕たちは、中断していた食事を再開した。

 ……彼女が心配するほど、僕はショックを受けてはいなかった。

 もちろん、両親が死んだということは悲しい。

 ……もっと薬草について色々教えてほしかったとか、素直に甘えておけばよかったとか、後悔すればキリがないよ。

 でも、両親が家を空けることが多くなった理由やノートを託された時の表情などに納得がいき、なんとなくスッキリしてるんだ。


(……今日、あのノートを読んでみよう。僕はもう、大人だ)


 こうして僕は、遂にノートを開く決心をしたのだった――――――――――。

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