暴風雨の中、君と
両親が帰ってこなくなってから、あっという間に半年の時間が流れた。
……さすがに、子どもの僕でも何かがいつもとは違うことに気付く。
だけど、彼女に聞いても上手くはぐらかされてしまうし……。
父さんから託されたノートを読めば、何か手がかりが残されているのかもしれない。
僕は、毎日のようにノートと向き合った。
だけど、ノートに絡みついた蔓は少し引っ張ったくらいじゃびくともしない。
それに、中身を知りたい気持ちと、父さんの言いつけを守りたい想いが両方あって……。
(……ぼくは、まだ大人じゃない。今は読む時期じゃないんだよね、父さん)
……結局、ノートを開けずにいた。
そんなある日のことだ。
「……ミシミシいってるけど、この家大丈夫かな」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それにしても、すごい雨と風だね」
この夜、僕たちが住んでいる地域にはとても大きい嵐がやってきていた。
木造の家からは絶え間なく軋むような音が聞こえ、僕の不安を煽る。
「……理玖ちゃん!」
急に、家のドアが開かれた。
そこには、激しい雨に打たれたせいでずぶ濡れになっているおばさんの姿があった。
いつも僕たち家族によくしてくれる、魔法使いの末裔の一人だ。
「おばさん、どうしたの……?」
「今すぐ、ここから逃げるんだよ!」
「え……?」
「詳しい説明をしてる時間はない! とにかく、今すぐここから逃げるんだ!」
……相当急いで走ってきたのだろう。
おばさんは息も絶え絶えに、両手で僕の肩を掴んでそう言った。
僕は、状況を理解することができない。
「……透花さん」
「……はい」
「……この子の親御さんから、事情は聞いてるね」
「……はい。理玖は、私が守ります」
おばさんはよくうちに来ていたから、もちろん彼女とも顔見知りだった。
呆けている僕をよそに、大人二人だけで会話が進んでいく。
「……理玖、よく聞いて」
「……なに」
「……私たちは、この家にいられなくなってしまったの」
「……どうして?」
「……それは、今は言えない」
「……父さんと母さんが帰ってこないことと、関係があるの?」
「……十分後にこの家を出ます。それまでに、必要な荷物をまとめてきて」
……彼女は、僕の質問には答えてくれなかった。
そのまま、家を出るための準備をしに行ってしまう。
……僕も、言われるがままに自分の部屋に戻った。
そして、自分が大切だと思うものを鞄に詰めていく。
父さんに貰ったくすりおろし、母さんが作ってくれたセーター、みんなで撮った写真。
……そして最後に、父さんから託されたノートを大切にしまうと自分の部屋を出る。
彼女は、既に準備を終えて待っていた。
おばさんは、この間に帰ってしまったのか見当たらない。
「……準備はできた?」
「……うん」
「……じゃあ、行こう」
彼女は、僕の手を優しく握る。
僕たちは、暴風雨が吹き荒れる中家を飛び出した。
そして、森を抜けひたすら走り続けたのだった――――――――――。