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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十一話 カリンの花を君にあげる
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それを、僕は一生忘れることはないだろう。

 ……この二年後くらいから、父さんと母さんは家を空けることが多くなった。

 今まではその日の内に帰ってきていたのに、数日、もっと多い時は一週間ずっと帰ってこないなんてこともあった。

 でも、僕の隣にはいつも彼女がいたからなんの不安もなかったんだ。

 ……何も考えずに、両親の帰りを待っていたよ。

 そんなある日、僕は父さんの部屋に呼ばれた。

 ……いつも穏やかな父さんの鬼気迫る表情を見たのは、この日が最初で最後だった。


「……理玖、よく聞きなさい」

「……はい」

「……父さんと母さんは、またしばらく帰ってこられないかもしれない」

「……しばらくって、どれくらい?」

「……それは、今はわからないんだ。だから、お前にこれを託そう」

「……これ、なに?」


 父さんは、僕に一冊のノートを手渡す。

 それは、随分と使い古された物のようだった。

 デュールサルマンという植物の蔓が絡みついており、すぐには開けそうにない。

 ……この蔓は、とても硬いんだ。


「……いいかい。これは、大人になってから読みなさい」

「……どうして、今は読んじゃいけないの?」

「……今はまだ、その時期ではないからだよ」

「……わかった」


 いつもと違う様子の父さんに、僕は頷くしかなかった。

 そんな僕を見て、父さんはいつもの優しい笑顔を浮かべる。


「……理玖、彼女を幸せにしてあげるんだ。そして、お前も幸せになるんだぞ」


 父さんはそう言うと、僕の頭を優しく撫でてくれた。

 ……この大きな掌の感触を、僕は一生忘れることはないだろう。

 父さんと母さんは、この日もいつもと同じように出かけていった。

 笑顔で、僕らに手を振って。

 ……でも、二度とこの家に戻ってくることはなかったんだ。

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