花を贈る意味
その日から、僕と彼女はいつも一緒だった。
薬草を探したり、川遊びをしたり、野鳥の観察をしたり……。
……今まで遊び相手のいなかった僕にとって、彼女と過ごす時間はとても楽しかったよ。
彼女は、どこへ行っても楽しそうに笑ってくれるからね。
こんな毎日を、三年ほど続けていた日のことだ。
自分の中に、今まではなかった気持ちが芽生えていることに気付く。
……子どもながらに、彼女のことが大好きだと思ったんだ。
それは、はっきりとは分からないけれど家族に向けるものとは違って……。
……彼女にとって、僕が弟のような存在だということはわかっていた。
でも、自分の気持ちを心の中に仕舞っておくことはできなくて……。
僕は、いつも二人で行っていた花畑に彼女を連れ出した。
「今日は、話があるんだけど……」
「うん、なあに?」
「……僕は、とうかのことが好きだよ」
……緊張で声が掠れてしまい、とても小さな声での告白になってしまった。
僕が彼女のことを呼び捨てにするのは、ちっぽけなプライドのせいだ。
敬称をつけたり、姉と呼ぶことで自分が彼女より子どもだということを認めたくない。
……呼び方だけでも、彼女と対等でありたかったんだ。
「……ありがとう。私も、理玖が大好きだよ」
彼女の表情を見れば、それが男女の愛からくる言葉ではないことは明白だった。
……目の前の綺麗な女性は、いつもと同じように微笑んでいるのだから。
「……今はまだ、僕はこどもだけど」
「……うん」
「……いつか、とうかよりも背が高くて大人になったら、あらためて言う」
「……うん」
「……その時には、花をおくるから」
「……うん、わかった。楽しみにしているね」
……我ながら、なんともませた子どもだったと思うよ。
僕はその日から、彼女に花をあげるのをぴたりと止めた。
今までは、森や花畑で綺麗なものを見つければその都度渡していたんだけどね。
……それから今に至るまで、僕が彼女に花を贈ったことは一度もない。