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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十一話 カリンの花を君にあげる
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雛鳥のように

「……ただいま」

「おかえり。理玖、遅かっ……」


 母さんは、僕が一緒にいる人を見ると言葉を失った。

 ……急に魔法使いじゃない人を連れて来たんだから、仕方ない。


「……どちら様かしら?」

「突然すみません。私は、一色透花と申します。怪我をしてしまい川辺で休んでいるところを、理玖くんに助けていただいて……」

「いっしき、とうか……。そう、あなたがそうなの。どうぞ、入って」


 母さんは、彼女の名前に聞き覚えがあったらしい。

 それまで纏っていた刺々しい雰囲気を解くと、彼女を家の中に迎え入れる。


「あらあら、随分深く切ってしまったのね。すぐに手当てしましょう」

「……すみません。ありがとうございます」

「いいのよ。理玖、ソワレーブとセダティフェルブを持ってきてちょうだい」

「……わかった」


 彼女が椅子に座ったのを見届けると、僕は薬を保管している部屋に向かった。

 すぐに、母さんに言われた二つの薬草を持って部屋を出る。


「……はい」

「ありがとう。早速薬を作るから、少し待っててね」


 母さんがくすりおろしで薬草を擂り始めたので、僕は彼女の隣に座った。

 改めて傷を見てみる。

 ……母さんの薬なら、一週間もあれば治るはずだ。

 その間は、うちにいてくれたりして……。


「理玖、ぼーっとしてないで今日採った分の薬草の整理をお願いね。綺麗なお嬢さんだから、傍にいたいのはわかるけど」

「……そんなんじゃないよ」


 からかうような口調で言われ、ムッとした僕は再び保管部屋に行く。

 ……口ではああ言ったものの、なんとなく彼女の近くにいたかった。

 急いで薬草を片付けると、彼女の元に戻る。

 それからは、ずっと隣にいた。

 母さんが傷の手当てをしている時も、夕飯を食べる時も。

 既に夕方になっていたから、彼女は泊まっていくことにしたんだ。

 夜に帰ってきた父さんは、やっぱり知らない人間が家にいることに驚いていた。

 でも、母さんと同じように彼女の名前を聞くと納得したようで……。

 いつの間にか打ち解けて、町の話などを興味深く聞いていたくらいだ。

 この日僕は、彼女に絵本を読んでもらいながら眠りに就いた。

 ……彼女と両親が夜遅くまで何かを話していたことなど、まるで知らずにね。

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