雛鳥のように
「……ただいま」
「おかえり。理玖、遅かっ……」
母さんは、僕が一緒にいる人を見ると言葉を失った。
……急に魔法使いじゃない人を連れて来たんだから、仕方ない。
「……どちら様かしら?」
「突然すみません。私は、一色透花と申します。怪我をしてしまい川辺で休んでいるところを、理玖くんに助けていただいて……」
「いっしき、とうか……。そう、あなたがそうなの。どうぞ、入って」
母さんは、彼女の名前に聞き覚えがあったらしい。
それまで纏っていた刺々しい雰囲気を解くと、彼女を家の中に迎え入れる。
「あらあら、随分深く切ってしまったのね。すぐに手当てしましょう」
「……すみません。ありがとうございます」
「いいのよ。理玖、ソワレーブとセダティフェルブを持ってきてちょうだい」
「……わかった」
彼女が椅子に座ったのを見届けると、僕は薬を保管している部屋に向かった。
すぐに、母さんに言われた二つの薬草を持って部屋を出る。
「……はい」
「ありがとう。早速薬を作るから、少し待っててね」
母さんがくすりおろしで薬草を擂り始めたので、僕は彼女の隣に座った。
改めて傷を見てみる。
……母さんの薬なら、一週間もあれば治るはずだ。
その間は、うちにいてくれたりして……。
「理玖、ぼーっとしてないで今日採った分の薬草の整理をお願いね。綺麗なお嬢さんだから、傍にいたいのはわかるけど」
「……そんなんじゃないよ」
からかうような口調で言われ、ムッとした僕は再び保管部屋に行く。
……口ではああ言ったものの、なんとなく彼女の近くにいたかった。
急いで薬草を片付けると、彼女の元に戻る。
それからは、ずっと隣にいた。
母さんが傷の手当てをしている時も、夕飯を食べる時も。
既に夕方になっていたから、彼女は泊まっていくことにしたんだ。
夜に帰ってきた父さんは、やっぱり知らない人間が家にいることに驚いていた。
でも、母さんと同じように彼女の名前を聞くと納得したようで……。
いつの間にか打ち解けて、町の話などを興味深く聞いていたくらいだ。
この日僕は、彼女に絵本を読んでもらいながら眠りに就いた。
……彼女と両親が夜遅くまで何かを話していたことなど、まるで知らずにね。