運命との出逢い
……もう、十五年くらい前になるかな。
僕はその日、いつもと同じように森の中で薬草を探してた。
(いつもより遠くまで来ちゃった。そろそろ帰らないと……)
帰り道を急ぐ僕の目に、人影が映り込む。
……川のほとりに、彼女は静かに座っていたんだ。
(水神様……?)
彼女と目が合った瞬間に思ったのは、そんなことだった。
それくらい、彼女は神秘的で……。
だけど、すぐに僕は我に返った。
(目を、見られた……!)
彼女の瞳は、茶色だった。
……僕たちの仲間じゃない。
そんな人に、瞳を見られるなんて……!
僕は、慌てて引き返そうとする。
「とても綺麗な瞳だね。まるで、太陽に照らされた向日葵畑みたい……」
……だけど、彼女は僕のことを気味悪がらなかった。
それどころか、綺麗って褒めてくれて……。
僕は改めて、彼女の様子を窺う。
彼女は、足を怪我しているみたいだった。
よほど深く切ったのだろう。
傷からは、血が流れ出している。
「このやくそう、けがにきくよ……」
……当時の僕は、何を考えていたんだろうね。
気付けば、見知らぬ女に近寄って先程採った薬草を差し出していたんだ。
「ありがとう」
彼女はふわりと微笑むと、薬草を受け取って傷口に当てる。
しばらくすると、血は止まったみたいだった。
……でも、これはただの応急処置だ。
これだけ深い傷だったら、化膿する心配もあるし……。
「……ぼくの家で、ちゃんとちりょうした方がいいよ。こっちだから……」
「……ありがたい話だけど、私が行っても平気? 君は、魔法使いでしょう? 彼らは、外界との接触を拒むと聞いているけれど……」
「……どうしてわかったの!?」
「君の目を見ればわかるよ。私たちとは、違う色をしているから」
「……気持ち悪くないの?」
「え……?」
「……ふつうの人間は、ぼくたちのことを気味悪がっているんでしょ?」
「気持ち悪くなんてないよ。とても綺麗な色だもの。それに、私も……」
彼女は、ここで言葉を区切った。
少し待ってみたけど、なかなか口を開こうとしない。
「……どうしたの?」
「……ううん、なんでもないよ」
そう言って、弱々しい笑顔を浮かべる。
(やっぱり、きずがいたいんだ……! 早く家に行かないと……!)
……我ながら、昔は単純だったと思うよ。
彼女の沈黙を、そんな風に理解したんだからね。
「……お姉さんは、怖い人じゃないから多分だいじょうぶ。行こう」
「……ありがとう。私は一色透花。君の名前を教えてもらえるかな?」
「……りく。はるはら、りくだよ」
自己紹介を終えると、僕は彼女の体を支えながら家に向かった――――――――――。