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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第十九話 ミソハギと共に走る
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大恩人

 いつまでも門の前で話してるわけにもいかねーから、俺は渋々こいつを家にあげた。

 身分を明かしたとはいえ、それが本当だという証明なんてないしな。

 ……でも、人見知りの大和があんなに懐いてたから、ただ者じゃねーのは確かだ。

 茶くらいは淹れてやるか。

 リビングに入った瞬間、俺は違和感に気付く。

 何かが燃えたような匂い……?

 テーブルを見ると、さっきまで大和のしていた折紙が炭と化していた……。

 呆然としていた俺に、女は声をかける。


「大和くん、立派でしたよ。すぐに気付いて……」


 女の話を要約すると、こうだった。

 俺が出て行ったすぐ後に、大和はトイレに行ったそうだ。

 用を足して戻ると、自分が遊んでいたはずの折紙が燃えていた。

 幼い大和に、火を消すような真似ができるはずがない。

 ここで大和は、誰かに助けを求めることを思い付く。

 ……しかし、俺からの言いつけがあるためドアから外に出ることはできない。

 パニックになった大和の目に映ったのは、庭だった。

 ドアじゃなくて窓なら怒られないと思い、そこから外に出たらしい。

 そこを偶然、この女が通りかかったんだそうだ。

 大和は女の手を引くと、家の中へと案内した。

 そこで女は火事に気付き、すぐに消火を行ったという。

 このまま大和を一人にはできないので、俺が帰るのを待つことにした。

 しかし、家の中で待つのもどうかと思い外にいたらしい。

 そこに、俺がやって来たというわけだった。


「そうだったのか……」


 女の話を聞いて、俺は体の力が抜けるのを感じた。

 不審者どころか、大恩人じゃねーか。


「あー、色々悪かったな」

「いえ。折紙が燃えるくらいで済んでよかったです。大和くんの勇敢な行動のおかげですね」


 女はそう言うと、柔らかな笑顔を大和に向けた。

 まあ、頑張ったから疲れて、話の途中で寝ちまってるんだけどな。


「それにしても、火種はいったい……」

「消火した後に確認したところ、どうやらこれだったようです」


 女が俺に見せたのは、タバコの吸い殻だった。

 ……焦り過ぎて、きちんと火を消せていなかったらしい。

 自分の不注意のせいで、大和をこんな危険な目に遭わせるなんて……!


「……本当に、ありがとな。大和を助けてくれて。こいつまで失ったら、俺は……!」

「……あなたを待っている間に、大和くんと色々なことを話しました。彼は、とても聡明な少年ですね。ノートを使って、頑張っておしゃべりしてくれましたよ」


 女の表情が、ここで悲しげなものへと変わる。


「……ご両親に、お線香をあげさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「……ああ、こっちだ」


 親父とお袋が死んだことは、大和から聞いたのだろう。

 俺は、二人の仏壇がある部屋へと女を案内した。

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