焦燥感に駆られて
それは、徐々に蒸し暑くなってきた頃のことだった。
大和は一人で折紙をしてたから、俺は庭でタバコを吸ってたんだ。
(そろそろタバコやめっかな……。体によくねーし……)
そんなことを考えていると、何やら周囲が騒がしい。
とある家の前に、野次馬やらマスコミやらが集まっている。
「あの! なんかあったんすか?」
俺は、その方角に向かっている男に声をかけた。
「子どもが行方不明になったんだってよ!」
「子どもが……!?」
「ああ。また例の連続誘拐犯の仕業じゃないかって噂だぜ。この辺も物騒になったもんだ。数か月前は、近くで殺しもあったしよぉ……」
男に礼を言うことすら忘れて、俺は室内に駆け込む。
乱暴にタバコを灰皿に押し付けると、大和に声をかけた。
「大和、わりい。兄ちゃん、ちょっと用事ができたから出掛けなきゃならねーんだ。すぐに戻ってくっから、家で待ってろ。誰が来ても、絶対にドアは開けるなよ。わかったか?」
大和が頷いたのを確認すると、俺は急いで靴を履いて家を出た。
……誘拐犯がまだ近くにいるなんて、もちろん思ってねえよ。
でも、居ても立っても居られなかったんだ。
俺は、人だかりの方へと急ぐ。
……焦り過ぎてまさかあんなことになるとは、この時の俺は考えもつかなかったぜ。