わらう
親父とお袋が死んだことにより、実家で兄弟二人での生活が始まった。
一人暮らしをしていたこともあり、俺は一通りの家事はこなせた。
大和は手がかからない子だったから、特に苦労した記憶もない。
だけど……。
「大和、テーブル拭いてくれるか?」
「………………………………(こくん)」
……大和は、声を失ってしまった。
医者に見せたところ、心的外傷のせいらしい。
……両親の最期を見たんだから、当たり前だよな。
俺はそれまで働いていた職場を辞め、できるだけ大和と過ごす時間をとることにした。
ありがたいことに両親が残してくれた金があったから、生活には困らない。
大和が幼稚園に行ってる時にちょっとバイトするだけで、しばらくは暮らしていける。
……この道を選んだことによって、軍人になるという野望は遠のいてしまった。
犯人を捕まえたいって気持ちは、もちろん消えてねぇ。
でも、こんな状態の弟を家に一人残して養成学校に通うことはどうしてもできなかった。
養成学校は朝から晩までみっちりカリキュラムが組まれており、忙しいのだ。
数回しか会ったことのない俺に懐き、兄として慕ってくれる。
今まで無関心だった分、こいつのために時間を使いたいと思ったんだ。
……でも、それはいつまで続くんだ?
普通に考えれば、大和がまた話せるようになる時までだろう。
……それは一体、何年後の話なんだ?
数日後かもしれないし、もしかしたらこのままずっと話せない可能性だってある。
俺は、どう考えても頭を使うタイプの人間じゃねえ。
軍人になったら、運動神経や体力を活かして貢献することになるだろう。
……あと数年もすれば、体は徐々に衰え始める。
そんな状態で、俺は本当に軍人になれるのか……?
俺は、自分の選んだ生き方を後悔はしてない。
大和と過ごす時間は穏やかで、心が癒される。
……だけどそれは、どこかぬるま湯のようにも感じるんだ。
「大和、今日は公園にでも遊びに行くか」
「………………………………!!」
「よし。最近熱くなってきたから、ちゃんと帽子を被ろうな」
様々な葛藤を抱えながらも、俺は大和に笑いかけるんだ。
こいつにとって、いい兄でいるために――――――――――。