人の数だけ歴史があるものだ
部長に連れられて入ったのは、とあるビアガーデンだった。
まだ昼間だというのに、多くの人で賑わっている。
「……ここって、ビアガーデンすよね」
「うん、そうだよ」
「俺、一杯だけ飲んだら帰るって言ったはずなんすけど……」
ビアガーデンというものは、時間内なら飲み食い自由の場所だったはずだ。
一杯だけ飲んで帰るような真似をする奴は、まずいないだろう。
……こりゃ、ハメられたな。
「ここが真っ先に目に入ったんだよ。他のお店を探す時間が勿体ないだろう? タイムイズマネー、時は金なりっていうからね」
「はあ……。まあ、もう金も払っちまったんで付き合いますけど……」
「ありがとう! ちなみにこのお店は時間無制限みたいだから、僕のことは気にしないで好きな時に帰っていいからね。じゃあ早速、飲み物と食べ物を取りに行こうか!」
「うす」
俺たちは、ビールで乾杯をした。
適当に持ってきたつまみを食べながら、休暇中の近況報告をする。
「ごほっ、ごほっ……」
「大丈夫すか?」
「ああ、うん、大丈夫だよ。ちょっとむせただけだから」
話をしていると、部長が急に咳き込んだ。
どうやら、隣の席のタバコの煙を吸ったせいみてーだ。
「部長、席変わりますか? こっちの方が煙こないっすよ」
「いいのかい? じゃあ、お言葉に甘えてさせてもらうよ。家族も誰も吸わないからか、タバコの香りには馴染みがなくてね……。柏木くんは平気なの?」
「うす。俺、昔は喫煙者だったんで」
「……え!?!?」
俺と席を交換した部長は、驚いたように目を見開いている。
「……そんなに驚くことすか?」
「めっっっっっちゃくちゃ驚いたよ! だって君、体に悪そうなことはしなそうなのに!」
「まあ、昔の話すからね。今は吸ってないですし」
「いやー、意外だった! 毎日一緒に練習してても、知らないこともあるものだね!」
この後も俺たちは、酒を飲みながらグダグダと色々なことを話した。
屋敷の奴ら以外とこんな時間を過ごしたのは久しぶりだった。
……正直、楽しいかも。
そのせいか、うっかり飲み過ぎちまったんだよな……。
いつもみたいに、春原特製の酔い防止の薬も飲んでねーし……。
「そういえば、柏木くんはどうやって一色隊の一員になったの? 一色隊って、他の隊と違って入隊試験もないし、追加の隊員募集もしてないって聞いたからさ」
「……別に、面白い話じゃないすけど」
「それでもいいよー! 興味があるから、よかったら聞かせて!」
「わかりました……」
アルコールでふわふわしている俺は、自分の過去について話し始めた――――――――――。