たまには、な。
「……くそっ! 負けた!」
「ふう、危なかった。あと五十メートルホテルが遠かったら、僕が負けてたかもしれないよ」
……今日も負けた。
でも、手応えはある。
確実に差は縮まってるから、あと何回かやれば勝てるかもしれねーな。
……まあ、それまでは負けが増え続けるんだけどよ。
「いやー、暑いね! 柏木くん、この後暇? 一杯やってかない?」
部長は、何かを飲むような動作をする。
「……一杯って、まさか酒すか?」
「うん! これだけ汗かいたから、ビールが美味しいと思うんだよね!」
「……部長、家族旅行って言ってませんでしたっけ? いいんすか? 戻らなくて」
「実は僕、置いてかれちゃったんだよね~」
「……はい?」
「この近くにテーマパークがあるじゃない? 僕以外の家族は、そこに遊びに行ってるんだ。この時期は混むから、入場制限があるらしくてさ。チケットが三枚しか取れなかったんだって。両親と弟が行くことになって、僕は暇ってわけさ」
「……そうだったんすか。でも俺、弟と約束があるんで……」
「えー! 柏木くん、いっつもそうじゃない! たまには付き合ってほしいなぁ」
……確かに俺は、部長や部員たちからの飲みや食事の誘いをいつも断っていた。
そんな時間があれば、少しでも長く大和の傍にいてやりたい。
……大和の笑顔が見られるのが、俺にとって何よりの幸せなんだ。
「それに、まだ午前中だよ! ちょっと飲んでから帰っても、時間はたっぷりあるからさ!」
「……そうすね。じゃあ、一杯だけなら……」
部長の言葉も尤もだと思ったので、俺は飲みの誘いに乗ることにした。
屋敷のみんなで宅飲みはあるけど、外で飲むのなんて久しぶりだな……。
「ほんとに!? よし、柏木くんの気が変わらないうちに行こう!」
「それにしても、こんな真っ昼間から開いてる店なんてあるんすか?」
「大丈夫だよ! ここは観光地だし、何より今は夏休みだからね!」
部長は、爽やかな笑顔を浮かべると人通りが多い方へ向かっていく。
俺も、その後を追って歩き出した。