いつもと少しだけ違う朝
「あれ? 蒼一朗さんは~?」
「走りに行ったよ」
「え!? 今日も!?」
「うん。一日でも休むと体が鈍っちゃうからって」
「ほんと、頑張るよね~」
「虹太くんだって同じだと思うけどなぁ。こっちに来てからも毎日ピアノ弾いているし」
「確かにそうかも~。ピアノがある別荘でよかったよ。透花さん、ありがとね☆」
「いえいえ、どういたしまして」
俺は、夏季休暇になってからも毎日のランニングを欠かさなかった。
いまだにあいつどころか、部長にも勝てねーからな……。
(今日はちょっと、距離を伸ばしてみるか……)
いつものコースを終えたが、まだ走り足りない。
そう思った俺は、いつもは通らない道へと足を踏み入れる。
しばらく走っていると、見慣れた背中を視界に捉えた。
(まさかこんなとこで会うわけないよな……。でも、あのペースで走れる奴なんて……)
スピードを上げて横に並び、不自然にならないように顔を確認する。
それは、俺のよく知るものだった。
「……部長、お久しぶりっす」
「あれ? 柏木くんじゃないか! こんな所で何してるの?」
「俺の隊、この近くの別荘で休暇を過ごしてるんすよ。部長こそ、どうしてここに?」
「家族旅行で、この近くにホテルをとってるんだ。なんとか休みをもぎ取れたからね」
「あー、そうなんすか……」
……俺は、正直気まずい気持ちでいっぱいだった。
こんな長期の休みなんて、普通だったらまず貰えないからな。
俺が休んでる間にも、働いてる奴らがいる。
……それは、部も同じだ。
休暇中は拠点をこっちに移したから、練習にも全く行けてねぇ……。
毎日、走ってはいるけどよ……。
だが、部長はそんなことなどまるで気にしてないようだった。
「それにしても偶然だね! そうだ、柏木くん、久しぶりに勝負しない?」
いつものように、俺に勝負を持ち掛けてくる。
「……もちろん、いいっすよ」
「やった! じゃあ、道なりに行くと大きなホテルがあるから、そこまででいい?」
「うす」
「じゃあ、レディ、ゴー!!」
こうして俺たちは、夏の日差しが照り付ける中走り出したのだった――――――――――。