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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第十八話 セロシアに火を灯そう
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その一言で、僕の心は救われるんです。

 僕はその後、透花さんに食事を作らせてほしいと申し出ました。

 助けていただいたお礼として、僕ができるのはこれくらいしかないので……。

 それに、料理をする時は心が落ち着きます。

 ……混乱している頭を、少しでも冷やしたかったという意図もありました。

 申し出を快く受けてくれた透花さんの笑顔を思い浮かべながら、僕はお粥を作ります。

 出来上がったそれを持つと、キッチンから先程までの部屋に戻りました。

 しかし、そこには透花さん一人しかいません。

 ……今思えば、透花さんが三人に席を外すように言ったんだとわかります。

 当時の僕には余裕がなくて、このお粥を食べてもらうことしか考えられませんでした。


「あの、作ってきました……。よかったら、召し上がってください」

「わぁ、卵粥だ! しらすも入っている! では、お言葉に甘えていただきます」


 彼女は一口分をレンゲで掬うと、それを冷ましてから口へ運びます。

 ゆっくりと咀嚼して、飲み込む姿を僕はジッと見つめていました。

 家族以外の人に、自分の料理を食べてもらうのは初めてです……。

 な、なんて言われるでしょうか……!


「……おいしい!」


 透花さんは、笑顔でそう言ってくれました。

 その言葉が、僕の心に染み渡ります。

 僕の料理を食べて笑顔でおいしいと言ってくれたのは、おじいちゃんとおばあちゃんだけでした。

 その二人を失ってしまい、僕は絶望しました。

 料理人にとって何よりも嬉しい言葉は、二度と聞けないんじゃないか……。

 この素晴らしい表情を、僕は一生見ることはできないんじゃないか……。

 そんな風に考えていた僕の不安を、透花さんはあっという間に拭い去ったのです。


「しらすの塩気がちょうどよくて美味しいです。……それに、とても優しい味ですね」


 僕の目から、先程は我慢できた涙がポロポロと零れ落ちました。

 透花さんは、僕の背中を優しく撫でてくれます。


「どうしてあのような場所に喪服でいたのか、お聞きしても構いませんか?」

「はい……!」


 僕は嗚咽を堪えながら、少しずつ自分のことについて話し始めました。

 今まで、どのように暮らしてきたのか。

 そして、何が起こり崖の上に喪服で立っていたのか。

 透花さんは、一度も焦らせたり遮ったりすることなく、最後まで静かに話を聞いてくれました――――――――――。

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