その一言で、僕の心は救われるんです。
僕はその後、透花さんに食事を作らせてほしいと申し出ました。
助けていただいたお礼として、僕ができるのはこれくらいしかないので……。
それに、料理をする時は心が落ち着きます。
……混乱している頭を、少しでも冷やしたかったという意図もありました。
申し出を快く受けてくれた透花さんの笑顔を思い浮かべながら、僕はお粥を作ります。
出来上がったそれを持つと、キッチンから先程までの部屋に戻りました。
しかし、そこには透花さん一人しかいません。
……今思えば、透花さんが三人に席を外すように言ったんだとわかります。
当時の僕には余裕がなくて、このお粥を食べてもらうことしか考えられませんでした。
「あの、作ってきました……。よかったら、召し上がってください」
「わぁ、卵粥だ! しらすも入っている! では、お言葉に甘えていただきます」
彼女は一口分をレンゲで掬うと、それを冷ましてから口へ運びます。
ゆっくりと咀嚼して、飲み込む姿を僕はジッと見つめていました。
家族以外の人に、自分の料理を食べてもらうのは初めてです……。
な、なんて言われるでしょうか……!
「……おいしい!」
透花さんは、笑顔でそう言ってくれました。
その言葉が、僕の心に染み渡ります。
僕の料理を食べて笑顔でおいしいと言ってくれたのは、おじいちゃんとおばあちゃんだけでした。
その二人を失ってしまい、僕は絶望しました。
料理人にとって何よりも嬉しい言葉は、二度と聞けないんじゃないか……。
この素晴らしい表情を、僕は一生見ることはできないんじゃないか……。
そんな風に考えていた僕の不安を、透花さんはあっという間に拭い去ったのです。
「しらすの塩気がちょうどよくて美味しいです。……それに、とても優しい味ですね」
僕の目から、先程は我慢できた涙がポロポロと零れ落ちました。
透花さんは、僕の背中を優しく撫でてくれます。
「どうしてあのような場所に喪服でいたのか、お聞きしても構いませんか?」
「はい……!」
僕は嗚咽を堪えながら、少しずつ自分のことについて話し始めました。
今まで、どのように暮らしてきたのか。
そして、何が起こり崖の上に喪服で立っていたのか。
透花さんは、一度も焦らせたり遮ったりすることなく、最後まで静かに話を聞いてくれました――――――――――。