落命
それは、本当に突然の出来事でした――――――――――。
「おじいちゃんとおばあちゃんが……?」
「……ええ。車に乗っている時に事故に遭ってね、即死だったそうよ」
僕は、母から告げられた言葉をうまく飲み込むことができませんでした。
昨日まで、あんなに元気だったのに……?
僕の料理を食べて、笑ってくれていたのに……?
「……ふん。これで邪魔者はいなくなったな」
「……そうね。晴久、立派な後継者になるために頑張りましょう!」
……次の瞬間に両親が発した言葉を、僕は一生忘れることはないでしょう。
「ふ、二人とも何を言ってるんですか……!?」
「言葉の通りだ。お前もとっくに成人していることだし、そろそろ結婚させるぞ」
「晴久、安心してちょうだい。あなたにぴったりな女性を、私たちが選んであげるからね!」
……この人たちは、何を言っているんでしょう?
「待ってください……! 二人が亡くなったばかりなのに、そんなの……!」
「これ以上待てるか! お前は、俺の言うことを聞いていればいいんだ!」
「何も心配することないのよ。私たちに任せておけばいいの」
父は、いつものように顔を真っ赤にさせて僕を起こりました。
母は、歪んだ笑顔を浮かべながらこちらを見ています。
父に怒鳴られる度に、母親の何かが壊れていくのは感じていました。
だけど、まさかこんなことになっていたなんて、僕は気付かなかったんです。
……自分のことに精いっぱいで、気付こうともしなかったんです。
「通夜は今夜、葬儀は明日だ。お前の結婚式は、一ヶ月後に行う。そんなにこの家を継ぐのが嫌なら、逃げ出せばいいだろう? お前はもう、子どもじゃないんだ」
……父は、全てを分かっていてこんなことを言うんです。
この町から出たこともない僕に、そんな覚悟があるわけないと。
体の弱い僕が、別の場所で生きるなんてできるわけがないと。
……たった一つの拠り所を失ってしまった僕には、もう選べる道は一つだけです。
僕は葬儀の日、もう動かなくなってしまったおじいちゃんとおばあちゃんに、手を合わせてあることを報告しました。
二人とも、僕の理解者だったからわかってくれますよね……?
……もう、僕にはこれしかないんですから――――――――――。