僕の大切な人たち
「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは」
「おっ、今日も来たな! はる坊!」
「はるちゃん、いらっしゃい」
僕に料理を教えてくれたのは、優しくて穏やかな祖母でした。
大らかで気さくな祖父も一緒に、僕の作った料理をよく食べてくれました。
僕の両親にホテルのことは全て任せて隠居しているので、二人には時間がありました。
……僕はこの二人が、大好きでした。
僕の父と母は、愛し合っているようには見えませんでした。
もちろん、僕が生まれる前のことは知りません。
でも、少なくとも今はそうは見えなくて、二人と一緒にいるのは怖かったんです。
だけど、祖父母は違いました。
両親も祖父母も、きっと家のための政略結婚だということに変わりはないのでしょう。
……ですがこの二人の間には、愛がありました。
一緒にいるだけで、心が温かくなるのを感じるんです。
「はる坊の料理は天下一品だな!」
「本当ですか!?」
「ええ。はるちゃんの愛情がたっぷり入ってるから、とってもおいしいわ」
二人は、いつも僕の料理を褒めてくれました。
おいしいって言って、全部食べてくれるんです。
……普段褒められることのない僕には、それがとても嬉しかったんです。
父や母にも、料理を作ったことはありました。
でも……。
「ふん! 料理なんて、女のすることだ!」
世界には、たくさんの男性の料理人がいます。
だけど、父は聞く耳を持ってくれませんでした。
「晴久、女の子に生んであげられなくてごめんね……」
……お母さん、違います。
僕は、お母さんにそんなことを言ってほしかったわけじゃありません。
ただ、おいしいって言って笑ってもらえたらなって思っただけです。
両親のこのような態度を、祖父母は度々嗜めてくれました。
「今時、長男が家を継がなければならないという考えは古い! 好きにさせてやれ!」
「そうだわ。はるちゃんには料理の才能があるのよ。そっちを活かしてあげても……」
「親父とお袋は黙ってろ! あいつは俺の息子で、このホテルは俺のものだ! 隠居した身のあんたたちに何かを言われる筋合いはない!」
「……晴久は、できる子です。私が絶対に、なんとかしてみせます……!」
……僕には、気持ちをわかってくれるおじいちゃんとおばあちゃんがいる。
両親を説得するには時間がかかるかもしれないけど、この二人がいればきっと頑張れる。
そう思っていた矢先に、あの事故が起こったんです――――――――――。