涼風が吹く中で
透花さんが溺れて一時行方不明になった昨日から、僕は少し体調を崩していました。
……理玖さんには、精神的なショックのせいだと言われました。
そんな僕を気遣って、透花さんが散歩に誘ってくれたんです。
「透花さん、あまり海に近付かれては……」
「大丈夫だよ。海には入らないから。ハルくん、風が気持ちいいね」
「……そうですね」
僕たちは今、夕暮れの波打ち際をゆっくりと歩いています。
一色隊は、王様からいただいた長期休暇を透花さんの別荘で過ごすことになりました。
夏なのに涼しくて、山や海などが近く自然に囲まれている素敵な場所です。
ホテルという選択肢もあったのですが、大所帯ですし、ぱかおくんの正体が判明すると大変なのでこの別荘を拠点にして様々な所に遊びに行くことになったんです。
「……ハルくん、ごめんね」
少し前を歩いていた透花さんは、足を止めると僕の方に振り返りました。
彼女は、悲しそうな表情を浮かべています。
「……調子が悪いの、私のせいだよね」
「っ……! そ、そんなことは……!!」
「……ハルくんは優しいね。本当にごめんなさい。あんな姿をまた見せてしまって……」
「違うんです……! 僕はただ、怖いだけなんです……!」
……僕の体は、また震え始めてしまいました。
そんな僕の手を、透花さんが優しく握ってくれます。
「……ハルくん、大丈夫だよ。私は、ちゃんとここにいるからね」
「……はい。温かい、ですね……」
「うん、そうだね。私たち二人とも、生きているんだもの」
「……そうですね」
……僕たちの間に、沈黙が流れます。
震えが止まるまで、透花さんは静かに僕の手を握っていてくれました。
僕はその温かさを感じながら、透花さんと初めて出会った時のことを思い出していたんです――――――――――。