そのぬるさも、また一興なのです。
ビーチバレーの後は、スイカ割りをやることになった。
試合形式の遊びではないので、これならば諍いが起こることもないだろう。
美海、大和の二人が失敗に終わり、次は理玖の番である。
もちろん、これは彼の本意ではない。
海に来たというのに読書しかしていないため、優先的に順番を回されてしまったのだ。
心底嫌そうな表情をしている理玖の目を、虹太が半ば無理矢理タオルで覆う。
そして、心と颯によって十回ほど体を回転させられた。
平衡感覚を狂わされた理玖は、ふらふらと歩き出す。
「りくにい、がんばれー!!」
「………………………………!!」
「もっと左ですよ」
「……二階堂、嘘を教えるな」
「理玖さん、そのまま真っ直ぐです」
「もうちょい右っす!」
「スイカ……」
「おう、その辺でいいんじゃねーか?」
「うん! かんぺきー☆」
仲間たちの指示を聞きながら、理玖はスイカの前まで辿り着いた。
「理玖、思い切りね!」
透花の言葉を聞き、理玖は棒を振りかぶった。
そして、それを勢いよくスイカへと下ろす。
しかし、スイカはコンという音を立てただけで全く割れなかった。
その光景に、皆の間になんとも言い難い微妙な空気が流れる。
まさか、彼がスイカも割れないほど非力だとは思わなかったのだ。
「……ちょっと。無理矢理やらせといて、静まらないでほしいんだけど」
理玖自身も、手応えはあったのに割れた感触がなかったことに気付いているのだろう。
ぶすっとした顔でタオルを取ると、スイカを一瞥してパラソルの下に戻ってしまう。
そして、何事もなかったかのように再び読書を始めた。
「……理玖さんが無理なら、僕もきっと無理でしょうね」
「俺も~。っていうか、これも手痛めちゃいそうだし」
「はっ! 目隠しすれば女の人が見えないんじゃ……!?」
「そうにい、次やって! 絶対われるでしょ!?」
「………………………………!!」
「そうだな。やってみるか」
「力加減を間違えないでくださいよ。僕、粉々なったスイカを食べるの嫌ですから」
「まあまあ、湊人くん。それもスイカ割りの醍醐味だよ」
「スイカ……」
「……結城、割れてもいないのに齧りつこうとするな。もう少し待て」
結局スイカは、蒼一朗が絶妙な力加減で割った。
全員に行き渡るように、晴久が丁寧に分ける。
透花は二人分のスイカを手にすると、パラソルの下へと向かった。
その内の一つを、理玖へと渡す。
「はい、理玖。さっきはお疲れ様」
「……ふん」
彼は本を読むのを止めると、それを受け取った。
そして、シャクリと音を鳴らしながら口に含む。
「……ぬるい」
そんな文句を言いながらも、きちんと自分の分を完食するのだった。