絶対零度の笑顔
式はつつがなく進んでいき、次は透花によるスピーチである。
一色隊は以前の入隊式の後にできたので、まだ認知度は低い。
そのため今回は、隊長である透花のスピーチが行われることになったのだ。
彼女が壇上に上がると、あからさまに場内がざわつき始める。
「あれが噂の一色透花か」
「王様のお気に入りで、隊長に抜擢されたって奴だろ?」
「はぁ? 何それ。そんなんで隊長になれんの?」
「あんな女に何ができるっていうんだよ」
「あの白い軍服の奴らが一色隊だろ?」
「噂で聞いたんだけど、あそこは雑用部隊って話だぜ」
「それなのに、あいつらだけなんで目立つ軍服着てんだよ」
「なんかウザくね?」
その侮蔑の声は、一色隊の耳にも届いていた。
今にも透花の悪口を言った相手に飛びかかりそうな颯に、柊平は静かに声をかける。
「……緒方、落ち着け。ここで喧嘩などしたら、それこそ相手の思う壺だ」
「でも、柊平さん! 透花さんのことを馬鹿にされて黙ってられないっすよ!」
「気持ちはわかる。だが、私たちの隊長はあの方だぞ。……見てみろ、あの顔を」
柊平に促され、颯は壇上に目を向ける。
そこには、自分や隊の悪口が聞こえているにも関わらず、いつもと同じように美しい笑みを浮かべる透花の姿があった。
そして、穏やかに言葉を紡ぐ。
「私は確かに、王様に抜擢されて今の地位をいただきました。それは紛れもない事実です。なので、私のことはどのように言っても構いません。ですが、私の隊の人間を悪く言うのはやめていただきたいです。彼らは私の大切な仲間なので、悪く言われるのを黙って聞いてはいられませんから」
そう言うと、とびきりの笑顔を浮かべる。
会場の温度が下がったように感じるのは、その笑顔に温度がないからだろう。
「それに、一色隊の人間は皆優秀ですよ。明日、それを証明させていただきますね」
彼女はその後、元々話す予定であったのだろう内容でスピーチを締めると、何事もなかったかのように舞台から下りたのだった。