王子へと還る瞬間
琉生はその後も、おやつ作りを手伝ったり昼寝をしたりと、普通の少年として充実した時間を送った。
しかし、楽しい時間には終わりが来てしまう。
日が暮れると透花は、柊平が運転するヘリコプターで琉生をナイトクルージングに連れ出したのだ。
(これは、ふつうの子どもがするものではないな……。余でも、それくらいはわかる。一色殿は余に、王子に戻るための時間を用意したのか……)
琉生は近付いてくる現実を受け止めきれずに、俯いていた。
その間に、ヘリコプターはあっという間に王都全てを見渡せる高さまで上昇する。
「……琉生様、外をご覧ください」
透花に促され、琉生はゆっくりと顔を上げて窓を覗く。
そこには、思わず息を飲むほど美しい夜景が広がっていた。
「この都は、これほどまでに美しいものだったのじゃな……。この美しい都を、そしてここに住まう全ての者たちを守る役目が、余にはあるのか……」
その言葉は、自然と口から出ていた。
透花はそんな琉生を見ると、優しく微笑んだ。
「琉生様、やはりあなたは統治者の器でございます。誰に言われずとも、この景色を見るだけでそう思われるのですから」
「一色殿……」
「辛いことも、悲しいこともあるでしょう。ですが、それらを乗り越えて立派な王になってこそ見える景色が必ずあると思うのです」
「そなたが言うのなら、そうかもしれんな……」
「また辛いことがあった時は、いつでも私たちを頼ってください。一色隊は、全力であなた様をサポートさせていただきます」
「……それは、余が王子だからか?」
「いえ、違います。あなたが琉生様だからです」
「……そうか! わかった!」
琉生は、吹っ切れたような笑顔を浮かべていた。
顔つきも、昨日より大人びて見える。
「一色殿、恩に着るぞ! 他の者たちにも、ていちょうに礼を言っておいてくれ。余はそろそろ、王宮へ帰らねばならないからな!」
「はい、承りました。柊平さん、このまま王宮の近くまで行ってもらえるかな」
「……かしこまりました」
こうして琉生は、自らの意思で王宮へと帰っていった。
彼が歩む道は、決して平坦なものではないだろう。
だが、これからもきっと頑張れる。
両親意外に”自分”を見てくれる存在を、胸に刻むことができたのだから――――――――――。