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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第十六話 花咲けるネリネ
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子どもらしい一面もあるんです。

 風呂から上がった琉生は、髪を乾かしている途中で寝てしまった。

 いつも暮らしている王宮を一人で飛び出し、電車に乗ったのだ。

 よほど疲れていたのだろう。

 こうして彼の長い一日は、静かに幕を下ろしたのだった――――――――――。






 翌日、朝食に使う野菜を収穫することから彼の一日は始まった。

 晴久に頼まれた琉生は、理玖と一緒に家庭菜園に出ていた。


「これはどうじゃ?」

「……大丈夫だよ」

「ぴーまんはこんな風に実るんじゃな! はじめて見たぞ!」

「……そう」

「野菜は農家じゃなくても作れるのだな!」


 今まで、野菜を収穫した経験などないのだろう。

 苗や葉を観察しながら、一つずつ丁寧にもぎとっていく。

 こうして、残りはミニトマトのみになった。


「……この辺りが食べ頃だから」


 理玖が声をかけても、琉生は動かない。

 先程まで楽しそうに収穫していた姿が嘘のように、すっかり萎れてしまっている。


「……ミニトマトは嫌いかい?」

「……あぁ! きらいじゃ! 中から出てくるぐにゅっとしたのが許せぬ!」

「……昨日、あれだけオムライスを食べていただろう」

「ケチャップとトマトは別物じゃ!!」


 理玖は少しの沈黙の後、静かな声で話し始めた。


「……料理は、作ってくれる人がいる」

「………………………………? そうじゃな」

「……野菜も同じで、必ず生産者がいる。これは僕が作ったものだ。それを目の前で嫌いと言われるのは、正直悲しい」

「………………………………!!」


 琉生は、賢い子どもである。

 理玖の言おうとしていることが伝わったのだろう。

 俯いたまま、黙り込んでしまった。

 理玖はミニトマトを一つもぎとると、それを琉生の口元に近付ける。


「……一つでいい。食べてごらん」

「でも……」

「これを食べても嫌いだと思うなら、朝食にミニトマトは出さないように僕から頼むよ」

「わ、わかった……!」


 琉生は覚悟を決めると、それを一口で収めた。

 咀嚼をする度に、しかめっ面だった表情が和らいでいく。


「お、おいしいぞ……!」

「……そう。よかったね」

「なぜじゃ!? どうして余は食べれた!?」

「……料理も野菜も、作った人の顔が見えるとよりおいしく感じるんだ。感謝をするからね」

「そ、そうなのか……!」

「……もう、ミニトマトは残さない?」

「……しょうじんしよう。今まで余が残してきたミニトマトにも、料理をしてくれた者や生産者がおったのだな。その者たちの気持ちをむげにするようなまねはしたくない」

「……うん。嫌いなものを頑張って食べたの、偉いと思う。……よくできました」


 理玖はそう言うと、琉生の頭をポンポンと撫でた。

 琉生の顔に、笑顔が広がる。

 それから二人は、ミニトマトを収穫して屋敷へと戻った。

 晴久によって美味しく調理されたそれは、あっという間に琉生の胃に収まったのだった。

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