子どもらしい一面もあるんです。
風呂から上がった琉生は、髪を乾かしている途中で寝てしまった。
いつも暮らしている王宮を一人で飛び出し、電車に乗ったのだ。
よほど疲れていたのだろう。
こうして彼の長い一日は、静かに幕を下ろしたのだった――――――――――。
翌日、朝食に使う野菜を収穫することから彼の一日は始まった。
晴久に頼まれた琉生は、理玖と一緒に家庭菜園に出ていた。
「これはどうじゃ?」
「……大丈夫だよ」
「ぴーまんはこんな風に実るんじゃな! はじめて見たぞ!」
「……そう」
「野菜は農家じゃなくても作れるのだな!」
今まで、野菜を収穫した経験などないのだろう。
苗や葉を観察しながら、一つずつ丁寧にもぎとっていく。
こうして、残りはミニトマトのみになった。
「……この辺りが食べ頃だから」
理玖が声をかけても、琉生は動かない。
先程まで楽しそうに収穫していた姿が嘘のように、すっかり萎れてしまっている。
「……ミニトマトは嫌いかい?」
「……あぁ! きらいじゃ! 中から出てくるぐにゅっとしたのが許せぬ!」
「……昨日、あれだけオムライスを食べていただろう」
「ケチャップとトマトは別物じゃ!!」
理玖は少しの沈黙の後、静かな声で話し始めた。
「……料理は、作ってくれる人がいる」
「………………………………? そうじゃな」
「……野菜も同じで、必ず生産者がいる。これは僕が作ったものだ。それを目の前で嫌いと言われるのは、正直悲しい」
「………………………………!!」
琉生は、賢い子どもである。
理玖の言おうとしていることが伝わったのだろう。
俯いたまま、黙り込んでしまった。
理玖はミニトマトを一つもぎとると、それを琉生の口元に近付ける。
「……一つでいい。食べてごらん」
「でも……」
「これを食べても嫌いだと思うなら、朝食にミニトマトは出さないように僕から頼むよ」
「わ、わかった……!」
琉生は覚悟を決めると、それを一口で収めた。
咀嚼をする度に、しかめっ面だった表情が和らいでいく。
「お、おいしいぞ……!」
「……そう。よかったね」
「なぜじゃ!? どうして余は食べれた!?」
「……料理も野菜も、作った人の顔が見えるとよりおいしく感じるんだ。感謝をするからね」
「そ、そうなのか……!」
「……もう、ミニトマトは残さない?」
「……しょうじんしよう。今まで余が残してきたミニトマトにも、料理をしてくれた者や生産者がおったのだな。その者たちの気持ちをむげにするようなまねはしたくない」
「……うん。嫌いなものを頑張って食べたの、偉いと思う。……よくできました」
理玖はそう言うと、琉生の頭をポンポンと撫でた。
琉生の顔に、笑顔が広がる。
それから二人は、ミニトマトを収穫して屋敷へと戻った。
晴久によって美味しく調理されたそれは、あっという間に琉生の胃に収まったのだった。