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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第十六話 花咲けるネリネ
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一人の少年へと戻る瞬間

 透花と琉生が屋敷に戻ってきたのは、すっかり日が暮れてからのことだった。

 簡単な自己紹介を済ませると、皆で食事をとる。

 テーブルに並べられたのは、オムライスや野菜たっぷりのコンソメスープなど、一般的な家庭で食べるものばかりだ。

 琉生はそれをキラキラとした瞳で見つめていた。

 このような料理を目にすることがあまりないのだろう。


「いただきます」


 行儀よく挨拶をすると、スプーンを持ちオムライスを自分の口へと運んだ。


「びみじゃ……!」

「それはよかったです」


 どうやら、お気に召したようだ。

 琉生の様子に、晴久もほっと一安心である。

 すぐさま続きを食べようとしたが、琉生はその手を止めてしまう。


「どうかしましたか?」

「……あまり急いで食べるのは、ぎょうぎが悪いじゃろう?」


 彼は普段から、テーブルマナーについても厳しく躾けられている。

 美味しいからといってガツガツと食べるのは、いけないことだと思っているようだ。

 そんな琉生に、晴久は優しく声をかけた。


「琉生くん、みんなを見てみてください」


 晴久に言われ皆に視線を向けると、口の周りに米粒をつけた大和や美海、そして一心不乱にオムライスをかき込む心や颯の姿があった。


「みんな、とても美味しそうに食べていますね」

「……そうじゃな」

「僕の作った料理を食べるのに、特別なマナーは要りません。美味しそうに食べてもらえるのが、何よりも嬉しいんです」

「……そうか! わかった!」


 晴久の言葉を聞き、琉生はスプーンを握る手に力を込めた。

 そして、勢いよくオムライスを食べ始める。


「お主が、この料理を作ったのだな?」

「ええ。僕はこの屋敷のコックさんなんです」

「このようなびみな料理は食べたことがない! うちのコックにも見習わせたいぞ!」

「ありがとうございます、琉生くん」


 本能のままに食べ進めると、あっという間にお皿が空になってしまった。

 いつもの琉生ならば、はしたないからと言ってお代わりは我慢するだろう。

 しかし、先程の晴久の言葉を思い出しおずおずと口を開く。


「あの、もっと食べたいのじゃが……」

「お代わりですか? 嬉しいです。すぐに持ってきますね」

「……ああ! おかわり!」


 優雅な振る舞いをしていた王子の姿は、もうなかった。

 そこにいたのは、口元をケチャップで赤くしながら笑う一人の少年である――――――――――。

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