一人の少年へと戻る瞬間
透花と琉生が屋敷に戻ってきたのは、すっかり日が暮れてからのことだった。
簡単な自己紹介を済ませると、皆で食事をとる。
テーブルに並べられたのは、オムライスや野菜たっぷりのコンソメスープなど、一般的な家庭で食べるものばかりだ。
琉生はそれをキラキラとした瞳で見つめていた。
このような料理を目にすることがあまりないのだろう。
「いただきます」
行儀よく挨拶をすると、スプーンを持ちオムライスを自分の口へと運んだ。
「びみじゃ……!」
「それはよかったです」
どうやら、お気に召したようだ。
琉生の様子に、晴久もほっと一安心である。
すぐさま続きを食べようとしたが、琉生はその手を止めてしまう。
「どうかしましたか?」
「……あまり急いで食べるのは、ぎょうぎが悪いじゃろう?」
彼は普段から、テーブルマナーについても厳しく躾けられている。
美味しいからといってガツガツと食べるのは、いけないことだと思っているようだ。
そんな琉生に、晴久は優しく声をかけた。
「琉生くん、みんなを見てみてください」
晴久に言われ皆に視線を向けると、口の周りに米粒をつけた大和や美海、そして一心不乱にオムライスをかき込む心や颯の姿があった。
「みんな、とても美味しそうに食べていますね」
「……そうじゃな」
「僕の作った料理を食べるのに、特別なマナーは要りません。美味しそうに食べてもらえるのが、何よりも嬉しいんです」
「……そうか! わかった!」
晴久の言葉を聞き、琉生はスプーンを握る手に力を込めた。
そして、勢いよくオムライスを食べ始める。
「お主が、この料理を作ったのだな?」
「ええ。僕はこの屋敷のコックさんなんです」
「このようなびみな料理は食べたことがない! うちのコックにも見習わせたいぞ!」
「ありがとうございます、琉生くん」
本能のままに食べ進めると、あっという間にお皿が空になってしまった。
いつもの琉生ならば、はしたないからと言ってお代わりは我慢するだろう。
しかし、先程の晴久の言葉を思い出しおずおずと口を開く。
「あの、もっと食べたいのじゃが……」
「お代わりですか? 嬉しいです。すぐに持ってきますね」
「……ああ! おかわり!」
優雅な振る舞いをしていた王子の姿は、もうなかった。
そこにいたのは、口元をケチャップで赤くしながら笑う一人の少年である――――――――――。