子どもが親から貰う、最初のプレゼント
透花は、琉生がいると思われる駅まで車を飛ばす。
いつもは柊平がいるため運転はしないのだが、彼女も自動車免許の保持者なのだ。
透花は車を持っていないので、乗っているのは隊として借りているものである。
近くにある駐車場に車を停めると、急いで駅へと向かう。
改札を抜け駅に入ると、ホームのベンチに座り途方に暮れている少年が視界に入った。
(よかった、まだいらっしゃった……。ここの駅は有人改札しかないから、切符を持っていない琉生様が通り抜けることはできないとは思っていたけれど)
透花の推理は完璧に当たっていたようだ。
ベンチに座る少年の姿が、それを物語っている。
「……お迎えに参りました」
透花は琉生に近付くと、優しく声をかけた。
「……ぐんぷくを着ているということは、そなたはぐんのものか」
「はい。一色隊の隊長、一色透花と申します」
「そうか、そなたが一色隊長か……。父上からよく話は聞いておる。そなたほどの者に見つかってしまったならば、帰らないといけないのぅ……」
琉生は、抵抗の姿勢を全く示さなかった。
まだ幼い少年だというのに、その瞳は暗く淀んでいる。
「琉生様……」
透花の言葉を聞くと、琉生は弾かれたように俯いていた顔を上げた。
瞳には少しずつ光が戻り、涙の膜が張っていく。
「そなたは、余の名前を知っておるのか……?」
「はい、勿論でございます」
「も、もう一度呼んでくれぬだろうか……?」
「それがお望みとあれば、何度でも。琉生様」
「そなたは、王子としてではなく余を一人の人間として扱ってくれるのだな……!」
琉生はベンチから立ち上がると、透花の足に顔が見えないような体勢でしがみつく。
自分の軍服が彼の涙で徐々に濡れていくことに、透花は気付いた。
「琉生様、よろしければ、なぜこのようなことをなさったのか聞かせていただけませんか?」
「うむ、うむ……!」
「ここではなんですから、私の車まで参りましょう」
「……わかった」
足にしがみつくのをやめた琉生の手を、透花は優しく握る。
その温かさに触れ、琉生の瞳からは更に大粒の涙が零れ落ちたのだった――――――――――。