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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第十六話 花咲けるネリネ
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行方不明の王子様

「「王子がいなくなった!?」」

「うん」


 この日、柊平と湊人の二人は透花の執務室に呼び出されていた。

 そして、衝撃の事実を聞かされる。


「……王子って、この国の王子だよね?」

「そうだよ。第一王子の琉生様」

「……まさか、誘拐でしょうか?」

「その線は薄いと思う。見張りの話ではちょっと目を離した隙にいなくなったらしいから、自分で出て行ったんじゃないかなぁ。誰かが侵入した形跡はなくて、身代金の要求もきていないし。それで、大臣から私に琉生様捜索の密命が下ったの」


 透花の言葉に、柊平は眉を顰めた。


「一色隊にではなく、隊長本人にですか……?」

「うん。軍を動かして琉生様の捜索を行った場合、彼が行方不明だということが民たちに知れ渡ってしまう。琉生様が自分の足で王宮を出て行ったと仮定すると、おそらく一人でいるでしょうね。そんな彼を狙って、悪事を働く者がいないとも限らない」

「でも、それならわざわざ隊長本人を指名しなくてもよいのでは……」

「要するに見くびられているんだよ、私は。王様に重用されている分、国の上層部には嫌われちゃっているからね。私が失敗するのを見越して、わざと一人で行くように命令したんじゃないかなぁ。彼らは、私を失墜させたくてたまらないみたいだから。全く、一国の王子の命をなんだと思っているのだか……」


 透花のため息には、どこか怒気が混じっているように感じられる。


「まあ、彼らのシナリオ通りには動いてあげないけれどね。必ず琉生様を連れて王都に戻るよ。それで、湊人くんに協力してほしいことがあるのだけれど」

「構わないけど、いいのかい? 一人で任務を遂行するように言われたんじゃないの?」

「私が受けた命令は、”単独で琉生様を連れ戻してくること”だよ。その過程で、誰かに協力してもらうのはダメだなんて言われてないもの」


 透花は笑顔で言い切った。


「……あなたって本当にずるい人だよね。了解。僕はどうすればいいの?」

「ありがとう。ここからは私の仮説になるのだけれど、それに基づく駅を検索してほしいの」

「わかった。自室のパソコンで調べた方が早いから、その仮説を教えてもらえるかな?」

「うん。じゃあ、言うね。既に琉生様がいなくなってから二時間ほど経っているから、今もまだ王都に留まっている可能性は低いと思うの。というか、王都にいればもう見つかっているはずだよ。そこかしこに街の警備のための軍人がいるのだから、彼がいなくなったことを知らなくても、一人で歩いていれば不審に思い声をかける。顔を知られているんだからね」

「……なるほど。それで?」

「子どもの足じゃ、そう遠くまでは行けない。でも、公共の交通機関を使えば簡単に遠くまで行ける。王子という立場上普段から現金なんて持ち歩いてないだろうから、料金前払い制のこの街のバスには乗れない。……となると、電車に乗ったと考えるべきだと思うの。琉生様くらいの年齢なら、大人の後ろについて改札を抜けることもできるからね」

「大和くんや美海ちゃんと同じくらいの年齢だもんね。僕も、充分可能だと思うよ」

「電車はバスよりも人目につくけれど、今は平日のお昼だもの。乗る電車を選べば、そこまで人は多くないはず。そして琉生様は電車に乗るのなんて初めてだろうから、おそらく乗り換えするということもわからないんじゃないかなぁ。というわけで、一本で出来るだけ遠くまで行けて、なおかつ人目の少ない電車の終着駅を探してほしいの」

「了解。すぐに調べてくるよ」


 湊人は調べものをするために、自室へと戻っていった。

 透花は、柊平の方へと向き直る。


「それで、柊平さんにお願いしたいことなのだけれど」

「はっ、なんなりとご命令を」

「もちろん今日中に戻ってくるつもりだけど、アクシデントに巻き込まれてしまうかもしれない。例えば、琉生様が既に誘拐されていて、犯人のアジトに突入するとかね」

「……縁起でもないことを仰らないでください」

「でも、可能性はゼロではないでしょう?」

「……はい」

「その場合、帰りが遅くなると思うんだ。今日の任務はあまり口外できる内容ではないので、このまま柊平さんと湊人くん以外には話さずに行きます。だから、帰りが遅くなってもみんなが心配しないように、うまく誤魔化しておいてもらえるかな? これは、隊長補佐のあなたにしか頼めないことなので」


 透花のまっすぐな視線が、柊平を貫く。


「……かしこまりました。くれぐれもお気を付けて」

「うん、よろしくね」


 ここで、湊人から通信が入る。

 琉生がいると思われる駅が絞り込めたようだ。

 透花はそれを聞くと、静かに立ち上がった。


「行ってきます」

「……行ってらっしゃいませ」


 言葉を交わすと、部屋を出て行く。

 その美しく凛々しい後ろ姿は、柊平の瞳にしばらくの間焼き付いて離れなかった――――――――――。

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