一人と一匹の水やり物語
④水やり班の場合
(おい! もうそれくらいでいいぞ!)
「え~? さっきのより少なくない?」
(野菜によって必要な水の量が違うんだ!)
「もしかして、野菜によって水の量を変えてるの? うひゃー! 超大変じゃん!」
虹太とぱかおは、家庭菜園の水やりを行っていた。
充分な量の水がかかると、ぱかおが虹太の服を引っ張る。
それを合図に水やりを止めるという方法でなんとか仕事をこなしている。
「それにしても、ハルくんとりっくんってすごいんだね。毎日野菜の世話してるんでしょ? 俺は一週間で勘弁だよ~」
(水やりはハルヒサ、それ以外はリクの仕事だからな! あっ、オレも毎日手伝ってること忘れるなよ!)
「あっ、ぱかおも毎日手伝ってるんだっけ。よ~し、偉い偉い」
(コウタ、オレのこと撫でるのうまくなったな! 気持ちいいぞ!)
ぱかおとじゃれていると、虹太の視線はあるものに惹きつけられた。
そこには、形のよい苺が実っている。
虹太は、一仕事終えて乾いている喉をゴクリと鳴らした。
「……手伝ったんだし、一個くらい貰っても大丈夫だよね?」
そして、苺へと手を伸ばす。
しかし、それはぱかおによって阻まれてしまった。
「やっぱり、つまみ食いはダメかぁ~……」
(違うぞ! これはまだ熟してないから、食べるならこっちのにしろ!)
ぱかおは、別の苗まで虹太を案内する。
「え、こっちならいいの?」
(おう! 教えたんだから、オレにもくれよな!)
「ありがとー☆ お礼に、ぱかおにもあげるね」
(コウタは、ほんとに音楽のこと以外はなんにもわかんないんだな!)
「俺って、ほんと音楽のこと以外わかんないんだね。苺一粒も一人じゃ選べないとか……」
(コウタ、どうしたんだ……?)
そう言った虹太の顔は、いつもとは違いどこか憂いを帯びているように見える。
しかし、すぐにいつもの軽い表情に戻ると苺を二粒摘み取った。
そして一つずつ、自分とぱかおの口へ入れる。
「おいしーい♪」
(あま~!)
「うちで食べる野菜っておいしいって思ってたけど、それはハルくんとりっくん、そしてぱかおが毎日頑張ってくれてるからなんだよね。もっと感謝しなきゃだよ~」
(どんどん感謝してくれ! オレ、ありがとうって言われるの大好きだ!)
「毎日ありがとね。ぱかおがいないと俺は水やりもできないから、明日からもよろしく~」
(おう! 明日からも頑張ろうな!)
虹太は翌日からも、水やりに勤しんだ。
始める前は誰よりも渋っていたが、終わる頃には一番楽しんでいたのは彼である。