喧嘩するほど仲がいい、のかもしれない。
③洗濯班の場合
「春原さんって、ほんとアナログ人間ですよね。洗濯機に任せればいいじゃないですか」
「……なんでもかんでも機械に頼るのも、どうかと思うけど」
「二人とも、喧嘩はやめましょうよ!」
理玖と湊人は、洗濯機の前で言い争いをしている。
止めに入る颯の言葉など、二人の耳には入らないようだ。
今日の争点は、理玖の白衣をどのように洗うかである。
「ちゃんと手洗いモードがあるんだから、それに任せればいいじゃないですか。便利な機能を使わずにわざわざ手洗いするなんて、時間の無駄ですよ」
「……それはあくまでも機械が手洗いっぽく洗うというだけで、本当に手洗いするわけじゃないだろう。悪いけど僕は、そこまで洗濯機のことを信用できない」
「いつもはどうしてるんですか?」
「……手洗いしてもらってる」
「晴久くんにですよね。彼は体が弱いんですから、余計な仕事を増やすのもどうかと思いますけど。それも、彼の主治医であるあなたが」
「……体が弱いとはいえ、彼は寝たきりの病人じゃない。これが仕事なんだし、やれることはやってもらっても構わないだろう」
言い争いがヒートアップしていくと、段々と論点がずれていく。
これは、二人にとって既に日常と化していた。
お互いに歩み寄ろうとしているせいか、以前よりも衝突することが増えたのだ。
「……あー、もう! 喧嘩ばっかりしてると、俺が一人でやっちゃいますからね!?」
自分の話など全く聞いてもらえない颯は、乱暴に洗濯機に衣類を放り込んでいく。
そして、柔軟剤を振りかけるとスタートボタンを押そうとした。
「……颯くん、ネットに入れないとダメなものもあるんだよ」
「それに、君が使ったのは洗剤じゃなくて柔軟剤だから……」
「へ!? これ洗剤じゃないんすか!?」
「……ああ。それは衣類が乾いた時に柔らかく仕上げるためのものだから、汚れを落とすことはできない。洗剤はこっちだ」
「それに、入れる場所も間違ってるね。洗剤はここ、柔軟剤はこっちに入れなきゃ」
「へー! 勉強になります!!」
颯は純真な笑顔を二人に向ける。
喧嘩は、いつの間にか収まっていた。
「……ひとまず休戦ですね」
「……ああ。彼に任せたら、ひどい仕上がりになりそうだ」
「湊人さん、理玖さん! ネットに入れるのはどうやって判別するんすか!?」
「服のタグを見るんだよ。そこに書いてあるからね」
「……このマークが書いてあったら、ネットに入れるんだ」
「へー! 俺、タグっていつも洋服の大きさ確認するためにしか見てませんでした!」
こうして三人は、その後は喧嘩をすることなく洗濯を終えたのだった。
ちなみに理玖は白衣を洗濯機で洗うことはどうしても許せず、自分で手洗いしたそうだ。
うまく絞ることができずにビチャビチャに濡れたまま干されているのを、多くの隊員が目撃したらしい――――――――――。