尊い日々に乾杯を
男たちを引き渡した二人は、再び柊平の車に乗り屋敷を目指している。
「結局あの人たち、私と柊平さんに昨日会っていたことに気付かなかったね」
「そうですね。……私はともかく、隊長は軍服と私服だと全く雰囲気が違いますので仕方ない気はしますが」
「えー、そうかな? 自分ではそうは思わないのだけれど。……それにしても、ごめんね柊平さん」
「……何がでしょうか?」
透花が申し訳なさそうに謝る意味が、柊平にはわからない。
「せっかくのお休みだったのに、結局は仕事をしてもらったし。屋敷に戻るのも、予定より遅くなってしまって……」
「……お気になさらず。あのような輩を放っておくことはできません。それに元々、私は仕事が好きですし」
「そう言われても、私としては責任感じるんだよなぁ……。あっ、そうだ! 実はこの間、いい清酒を手に入れたんだ。それ、柊平さんにあげるよ。今日はそれで、一人でゆっくり晩酌でもしたらどうかな? あ、でも明日は仕事だから今日は飲まないか……」
どうやら透花は、柊平の休日を潰してしまったことによほど責任を感じているらしい。
彼女にしては珍しく、考え込んでしまった。
そんな透花の様子を見て、柊平の脳裏にある考えが浮かぶ。
「……隊長。その酒、本当にいただいてもよろしいんですか?」
「うん! もちろん! 別に、今日飲まなくてもいいもんね」
「……いえ、ぜひ今日いただきたいと思っています。隊長や、他の皆がよければ一緒に……」
柊平の言い方に、透花はピンときた。
彼は、皆で宴会をしたいと言っているのだ。
「いいねー! ちょうど今日は、未成年組がいないものね! たまには大人組だけで楽しんじゃおう!」
柊平の提案に、透花は乗った。
未成年である颯と心は学校の勉強合宿のため、大和と美海は学校主催のお泊まり会で家を空けていた。
つまり屋敷には、成人しているメンバーしかいないのだ。
「それにしても、柊平さんがそんな風に言うの珍しいね。みんなでわいわい飲むのよりも、一人で静かに飲む方が好きなイメージだったから」
「……普段ならそうですが。今回の任務で、椎名や遠野、そして春原に気を遣わせてしまったようですし。気遣いを労う、という言葉はおかしいかもしれませんが……」
「柊平さんがみんなの心遣いが嬉しかったように、みんなも柊平さんの気持ち、嬉しいと思うよ」
みんなの気遣いが嬉しかったから、今日は一緒に飲みたい気分だと彼は言いたいのだ。
堅物ゆえに言葉は足りないが、透花には彼の気持ちが伝わっていた。
「……そうだといいのですが」
「絶対そうだよ。私が保障する。明日の仕事に響かないように、理玖にウコンドリンク作っておいてもらおうね。あと、ハルくんに連絡して、夕飯じゃなくておつまみ作ってくれるようにお願いしなきゃ。柊平さん、何か食べたいものある?」
「……では、たこわさと豚の角煮を」
「了解! じゃあ、ハルくんに電話しちゃうね。あ、もしもしハルくん? あのね、今日の夜なのだけど……」
透花が電話する声を聞きながら、柊平はこれから来るであろう楽しい時間に想いを馳せた。
この日の宴会は、大変な盛り上がりを見せた。
しかし全員が理玖特製のウコンドリンクを飲んでから臨んだので、翌日の仕事に支障をきたした者はいなかったらしい。
柊平がみんなの前であれほどリラックスした表情を見せるのは初めてだったので、透花は驚きつつも彼の変化に喜んでいた。
彼女が喜んだのは、柊平に対してだけではない。
みんなが関わり合うことによって化学反応が起こり、よい変化を見せている。
毎日変わっていく彼らの様子を見るのが、今の彼女にとって何よりも幸せで、尊いものなのだ――――――――――。