人格豹変スイッチ
少し遅れて、同じように路肩に車を停めた柊平がやって来た。
透花は男たちの車から降り、彼に話しかける。
「……彼らの顔、すごく見覚えがあるんだよね」
透花は苦笑いを浮かべながら言う。
それは、窓から男たちを覗き込んだ柊平にも見覚えのある顔だった。
「……はい。私もよく覚えています。昨日、隊長に声をかけた輩ですね」
男たちは、前日の夜に祭り会場で透花に絡んでいた者たちだったのだ。
「随分アルコールが入っているみたい。計測器で測ってみたけど、基準値を遥かに上回っていたよ」
「……もしかして、昨日の夜から一睡もせずに飲み明かしていたのでしょうか?」
「その可能性は大いにあると思うな。近くの交通課に連絡したら、すぐに現場に向かうからそれまで保護してくれって」
透花の言葉を聞いて、柊平の目つきが変わった。
「……それまでは、こちらの自由にしてもいいという解釈でよろしいでしょうか?」
「……うん、柊平さんにお任せするよ」
そんな彼の様子を見て、透花は困ったような笑みを浮かべる。
(スイッチ、入っちゃったかな……?)
柊平は男たちの車の助手席に乗り込むと、冷たい声で言い放つ。
「……お前たち、いつから酒を飲んでいた」
「昨日の夜から朝まで、ず~っとだよ!」
「あのいい女が付き合ってくれれば、もっと美味い酒が飲めたのによぉ!」
「なんかお前、どっかで見たような面だなぁ……?」
柊平の言葉はなんとか届いているが、男たちは事の重大さがよく分かっていないようだ。
飲酒運転の事実を隠そうともしない。
「……寝ずに飲酒にふけり、そのままの状態で運転していたということか」
「べっつにいいじゃねーかよ!」
「事故を起こしたわけでもねーし!」
「俺らがお前に、なんの迷惑をかけたっつうんだよ!? あぁ!?」
男たちは、勢いよく啖呵を切る。
酩酊状態の男たちには、軍の人間に捕まって尋問されているということがわからないのだ。
車に乗り込んできた女と目の前の男が、昨夜のカップルと同一人物だということにも気付いていないらしい。
「……お前たち、いい加減にしろ!!」
それまでボリュームを抑えていた柊平の声が、急に大きくなった。
「……私が、飲酒運転の危険さを嫌というほど叩き込んでやる。心して聞け。飲酒運転というのはな……」
ぽかんとする男たちを気にも留めず、柊平は説教を始めてしまった。
それまでは静かに彼らの様子を見守っていた透花だったが、柊平の様子を見て彼の車に戻る。
(後は柊平さんに任せておけば大丈夫そう。だけど、あの状態になると長いし……。この間に、私は報告書でも完成させちゃおうかな)
柊平は酒と車が好きなので、それに対するルールを守れない輩がどうしても許せない性質だった。
そういう者たちを見かけるといつものクールな態度から豹変し、見境なく説教を始めてしまうのだ。
透花は彼らの様子を気にする様子もなく、黙々と報告書を書き上げていった。