優しさに包まれて
翌日、柊平と透花は屋敷へ戻るために車に乗り込んだ。
この車、柊平個人のものではなく隊として借りているものである。
今回は私用ではなく任務なので、当たり前のことだ。
だが相手が透花であっても、他人を自分の車に乗せたくないのも事実だった。
エンジンをかけたところで、透花が柊平に声をかける。
「柊平さん、少し待ってもらえるかな。一応、酔い止めを飲んでおくから」
「かしこまりました」
「大丈夫だとは思うのだけれど、せっかく理玖がくれたしね」
透花が鞄から取り出したのは、錠剤だった。
「……春原の作った薬にしては珍しく、粉末ではないですね。彼の薬はよく効きますが、粉状で苦く飲みにくいものばかりだと思っていましたが……」
「車の中で飲むことを想定して、今回は錠剤にしたみたいだよ。粉が飛び散ったりするの、嫌でしょう?」
「……気を遣わせてしまったようで、申し訳ないです」
「理玖は元々、錠剤も作れるの。だけど、粉末の方が作るのが簡単だし効くのも早いから、そっちをメインにしているって。でも最近、みんなから苦くて飲みにくいって文句を言われるから、また錠剤作りも始めたみたいだよ。だから、そんなに気にしなくて平気だと思う」
透花は、ペットボトルに入っている水で薬を飲み下した。
「柊平さんもいる?」
「いえ、車酔いはしませんので」
「そうだよね。もし途中で糖分が欲しくなったら言ってね」
「……遠野ですか?」
「うん。さすが柊平さん、察しがいいね。ハルくんが作ってくれたグミがあります」
「グミ、ですか……?」
「うん。グミなら、零れたり匂いが残ったりしないでしょう?」
隊で借りている車も清潔に使うことが、柊平のポリシーだった。
それは、隊の全員が知っていることだ。
そんな柊平のことを思っての理玖と晴久の心遣いは、とても嬉しいものだった。
「……はい。では、後ほどいただきます」
「うん。じゃあ、帰りも音楽をかけてと……」
透花がミュージックプレイヤーに触れると、美しいピアノの旋律が流れ始めた。
虹太がドライブ用に選りすぐり、用意してくれた曲たちだ。
まだ練習中なので、彼自身の演奏ではないのが残念である。
だが彼が選んだ曲は、そのどれもが柊平の好みに合っていた。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
こうして二人のドライブは、穏やかな音楽に包まれながら始まったのである。