隊長と隊長補佐
会場までの道すがら、柊平は疑問に思っていたことを透花に尋ねた。
「しかし隊長、なぜ一泊なさることにしたのですか? お祭りを楽しむだけなら、日帰りでも可能だったと思うのですが……」
「泊まらないで帰ったら、明日も仕事するでしょう? 柊平さんに仕事を休んでもらうための、ただの私のわがままだよ。あとは、車移動であることを見越してかな」
「……お心遣い、ありがとうございます」
「感謝されるようなことじゃないよ。さっきも言ったでしょう? ただのわがままだって」
柊平は、他の隊員たちの前で寛いだ姿を見せるのが苦手だった。
透花を支える、隊長補佐という役職に就いている故だ。
透花と二人だけのこの空間では、いつもより気持ちが和らいでいることに気付く。
「ところで、柊平さん」
「はい。なんでしょうか?」
「後ろじゃなくて、隣を歩かない?」
少し後ろを歩いていた柊平に、透花は振り向いて声をかける。
柊平が彼女の後ろを歩くのも、生真面目な性格も関係しているが、役職に対する責任からくるものが大きかった。
「……ですが、私は隊長を補佐する立場です。隣を歩くようなことは……」
「今は、仕事じゃなくてプライベートでしょう? そこまで気を遣ってくれなくても平気だよ。急に直すのも難しいだろうから、徐々にでもいいけれど。せめて仕事の時間じゃない時は、立場を気にすることなく隣を歩いてくれると嬉しいな」
「……善処いたします」
「うん、よろしくね」
このような会話を交わしながら、二人はお祭りの会場へと入っていった。