夢への軌跡は、まだ始まったばかりだ。
後日、颯と夏生は由莉の店に行った。
由莉が夏生を気に入ってしまい色々と大変だったが、無事に服を購入することができた。
そして今日は、遂に夏生のチェキ会当日である。
夜から出掛ける虹太のためにヘアセットをしていると、颯の携帯電話が着信を告げる。
すぐに音が途切れたので、電話ではなくメールのようだ。
「颯くん、ケータイ鳴ったよ~」
「ちょっと手が放せないんで、読み上げてもらってもいいっすか?」
「合点承知の助~☆」
掌がワックス塗れの颯の代わりに、虹太が颯の携帯電話を手に取った。
颯はその性格ゆえかロックをかけていないので、すんなりとメール画面まで進む。
「有川夏生くんって子からだよ~」
「やっぱり有川か! なんて書いてあるっすか?」
「『今日のチェキ会、大成功だったよ! メンバーからもファンの人からも、オシャレだねって褒められちゃった☆ 緒方くん、本当にありがとう!』だって。画像もついてるみたい」
「見せてもらってもいいっすか?」
「ほい、どーぞ♪」
そこには、爽やかかつ上品な服に身を包み、髪型もバッチリ決まった夏生がいた。
ピースをしながら、キラキラと輝く笑顔を浮かべている。
「うおおおおお! 成功してマジよかった!」
「あっ、まだ続きの文章があった。『僕たちがコンサートできるくらいのグループになったら、絶対に招待するからね!』って書いてある」
「虹太さん、代わりに返信してもらってもいいっすか?」
「もちろーん☆ なんて返すの?」
「まずは、『今日はうまくいってよかったな! また買い物行こうぜ!』でお願いします!」
「はいはーい」
「打つのはやっ!」
「えへへ~♪ メールの早打ちには自信あるよん☆ 次はなんて打つ?」
「『コンサートに呼んでくれる時は、客は男限定で頼むぜ!』で!」
「……颯くん、結構難しいこと言うね~」
「そっすか? ほら、たまにあるじゃないすか! 女性客限定の女性アイドルのライブとか、男性客限定の男性歌手のコンサートとか! あんな感じっすよ!」
「じゃあ、この夏生くんには有名になってもらわないとね~。そういうのって、同性だけでも集客が見込めないと実現しないだろうし」
「多分大丈夫っすよ! 俺、あいつがビッグになるって信じてるんで!」
そう言った颯の顔は、先程の夏生に負けないくらい輝いていた。
若者たちの夢への軌跡は、まだ始まったばかりである。