実り多く、謎が深まった一日でした。
「緒方くん、今日は本当にありがとう!」
「別にいいって! 人を着飾るのは、俺の趣味だしな!」
夕方ということもあり、ヘアアレンジをマスターした夏生は帰ることになった。
二人が玄関に着いたところで、扉が開く。
聞こえてきたのは、柔らかな声だった。
このような声を出す人物など、この屋敷には一人しかいない。
「透花さん! お帰りなさいっす!」
「ただいま、颯くん。今日はお友達が来ていたんだね」
「うっす! クラスメイトの有川夏生です!」
「こ、こんにちは……」
「こんにちは。この屋敷の家主の一色透花です」
「は、はあ……」
「俺、有川のこと大通りまで送ってくるっす!」
「はーい、行ってらっしゃい。有川くん、よかったらまた遊びにきてね」
「あ、はい! お邪魔しました!」
神妙な面持ちで、夏生は屋敷を後にした。
しばらくはそのまま歩いていたのだが、意を決して口を開く。
「……緒方くん」
「ん? どうした?」
「……さっきの一色さんって、女の人だよね?」
「当たり前だろ! まさか、男に見えたのか!?」
「いや、そうじゃなくて……。緒方くんは女嫌いなのに、なんであの人は平気なのかなって思ってさ。とっても綺麗な人だったし……」
「あー、そういうことか! 俺、透花さんには何故か女を感じねーんだよ!」
「……はい?」
颯は、失礼なことをさらりと言い放った。
「女が全員ダメなわけじゃないんだ! 例えば幼稚園生とか小学校低学年くらいの女の子、これは女性っていうよりも少女だろ? だから大丈夫っぽい! 同じように、お年寄りなんかも平気だぜ! こっちは、女性っていうよりもおばあちゃんって思うからな!」
「言いたいことはわかるけど、さっきの一色さんはどっちにも当て嵌まらないんじゃ……」
「そうなんだよ! 自分でも不思議なんだよなー! でも俺、透花さんにはこれっぽっちも女性を感じないんだ! もちろん、美人だとは思うぜ!」
「……そっかぁ」
笑顔で言い切った颯に、夏生はこれ以上の言及を止めた。
彼の言いたいことはわかるが、理解はできないと思ったからだ。
そんなことを話している間に、いつの間にか二人は大通りに出ていた。
「この辺まで来れば、後はわかるか?」
「うん。緒方くん、今日は本当にありがとね!」
「ほんと気にすんなって! すっげー楽しかったし!」
「うん、僕も! 買い物も楽しみにしてるね!」
「おう! じゃあ、また明日学校でな!」
「うん、ばいばーい!」
こうして、二人は別れた。
この日は夏生にとって、実りの多い一日となった。
同時に、颯に対する謎がぐんと深まることにもなったのだった。