少年たちとレモンスカッシュ、大人の男とコーヒー
「……すっごくおいしい! 市販のものよりおいしいです!」
「お口に合ったならよかったです」
「晴久さんが作るものはなんでもうまいんだぜ! 俺の弁当も、毎日作ってくれてんだ!」
「そうなんだ。二人はどういう関係なんですか? 兄弟ってわけでもなさそうだし……」
レモンスカッシュを飲みながら寛いでいると、夏生が疑問を投げかけてきた。
颯は夏生にシェアハウスをしているということだけ伝え、詳細は話していないのだ。
普通の高校生と軍人という二束のわらじを履くというのは、過去に前例がないらしい。
本来ならば軍人になるためには、養成学校に通わなければならない。
しかし一色隊のほとんどの隊員は、この正規の手続きを踏んでいない。
これが、彼らが他の隊から倦厭され蔑まされる理由の一つだ。
なので学生の面々は、友人たちにはこのことを秘密にしているのだ。
「あー、えーっとそれは……」
「……邪魔するぞ。悪い、遠野。コーヒーを淹れてもらえないか」
颯が言い淀んでいると、柊平がリビングへ入ってきた。
仕事の休憩がてら、飲み物を取りに来たらしい。
「あ、柊平さん。お疲れ様です。コーヒーがよろしいですか? レモンスカッシュならお待たせせずにお出しできますが……」
「……いや、それでいい。貰おう」
「はい。では、すぐに持ってきますね」
柊平の分のレモンスカッシュを用意するため、晴久はリビングを出て行く。
ここで、柊平は夏生の存在に気付いた。
「……悪い。客人だったか」
「気にしないでください! 俺のクラスメイトが遊びに来てるだけっすから!」
「あ、こんにちは! 有川夏生といいます!」
「……こんにちは。久保寺柊平といいます。緒方と仲良くしてやってくださいね」
「いえ! 仲良くしてもらってるのは僕の方なので……!」
柊平が来たことによって、夏生の興味はそちらに逸れたようだ。
誤魔化すということが苦手な颯は、質問に答えずに済むことにほっと胸を撫で下ろした。
そうこうしている内に、レモンスカッシュを持った晴久が戻ってくる。
「どうぞ」
「すまない」
「後ほど、コーヒーも淹れてお持ちしますね」
「……悪いな。よろしく頼む。では、私はこれで」
コップを受け取った柊平は、そのままリビングを出て行った。
その背中を見ながら、夏生がポツリと呟く。
「久保寺さんって、大人の男って感じでかっこいいね! 僕も、あんな風になりたい……!」
「確かに、クールで仕事のできる男って感じでかっけーんだよな! 柊平さんも青い服をよく着てるし、私服見せてもらえるか頼んでみっか!」
「うん! 緒方くん、ありがとう!」
レモンスカッシュを飲み終えた二人は、晴久が淹れたコーヒーを持って柊平の部屋を訪ねることにしたのだった。