始まりの前日
「明日のお昼は、心くんと颯くんは高校の、大和くんと美海ちゃんは小学校の入学式だよね」
隊の生活の拠点となっている屋敷のリビングには、一色隊の隊員たちが集まっていた。
翌日の予定についての確認があるため、透花によって招集されたのだ。
だが、晴久の姿は見えない。
先日のお花見任務により、体調を崩してしまい横になっているからだ。
「蒼一朗さんは、大和くんの入学式に出るでしょう?」
「おう」
「僕も……」
「心くん、それについては前も話したよ。美海ちゃんの入学式に出たい気持ちはわかるけれど、自分の方を疎かにしてはダメだよって」
「ビデオ撮ってきてやるから、お前はちゃんと自分の入学式に出ろよ」
「……わかった」
大和とは蒼一朗の弟の名前だ。
既に両親は他界しているので、兄弟二人で一色邸に住んでいる。
そして美海とは心の妹だ。
この二人には母親がいるが、訳あって離れて暮らしているのだ。
「私は心くんと颯くんの方に行く予定なのだけれど、ここでみんなにお願いがあるの。生徒が二人なのに保護者が一人だけなのもアレかなーと思うので、小学校、高校ともに入学式に出席してくれる人を一人ずつ募集します。……心くん、そんなにキラキラした目で見つめられても君はダメだからね」
透花の話を聞くと、理玖は椅子から立ち上がった。
「……話がそれだけなら、僕はもう部屋に戻るよ。人の多い場所にわざわざ赴きたくない」
それだけ言うと、リビングを出て行ってしまう。
そんな理玖を、透花は特に止めはしなかった。
「まぁ、理玖はああ言うだろうと思っていたから仕方ないかな。体調的にハルくんも無理だから、柊平さん、虹太くん、湊人くんの中から二人にお願いしたいのだけれど……」
「では、私が行きます」
「昼は用事があるから、俺はパス~」
「……ということは、必然的に僕が行くことになるね」
こうして、用事がある虹太を除いた二人が参加することになった。
「二人とも、ありがとう! よろしくね。じゃあ、お昼の話はこれでおしまい。夜の話に移るね」
明日は学校の入学式だけではなく、軍の入隊式も催される。
様々な事情を考慮した結果、例年入隊式は夕方から開始されるのだ。
一色隊は結成から一年が経過していないため、全員がこの式に出席する必要がある。
「とにかく軍服を着て、時間通りに来てくれればいいから。私はスピーチがあるからみんなと一緒にはいられないので、統率は柊平さんにお任せするね」
「かしこまりました」
「もう私たちは一つの隊として活動しているけれど、正式には明日が出発の日です。みんな、気合入れていこうね!」
様々な思いを抱えながら、一色邸の夜は更けていく――――――――――。