少しずつ、一歩ずつ
「「………………………………」」
それは、大吾と日菜子の結婚式から数日が過ぎたとある昼下がりのことだった。
透花に呼ばれた理玖と湊人は、一色邸の中庭にいた。
しかし、肝心の透花がまだ来ていないのだ。
二人とも律儀に彼女を待ってはいるが、お互いに無言である。
一緒に行っていた任務も終わってしまい、特に話すことがないのだから仕方ない。
「……いい、式でしたね」
意外にも、沈黙を破ったのは湊人だった。
理玖は驚きつつも、それを表情には出さずに返事をする。
「……そうだね」
「僕、あんなに幸せが溢れてる空間って初めてでしたよ」
「……ああいう雰囲気は、そうあるものじゃないから」
「今はまだ想像つかないですけど、僕もいつか結婚するのかなって思いました」
「……そりゃ、いつかはするんじゃないの」
「春原さんもやっぱり、自分の将来について考えましたか?」
「……さあ」
「ふふっ、はぐらかさないでくださいよ」
「……そういうつもりじゃないけど。あまりにも君がグイグイくるから、驚いてるだけ」
「たまにはいいじゃないですか。今回の件で、少しだけ見解を改めたんです」
「……へえ?」
「だから、春原さんともコミュニケーションをとってみようと思い話しかけてるんですよ」
「……話さなくても、君ならなんでも調べられるだろう?」
「実際に話してみないとわからないこともあるって学んだんです。今回がまさにそうだったじゃないですか」
「……そうだね」
「というわけで、僕からいくつか質問させてもらいたいんですけど」
「……どうぞ。でも、答えられるものにしか答えないから」
「それで構いませんよ。じゃあまずは……」
透花は二人の不器用な会話を、中庭へと続く扉の裏で聞いていた。
理玖と湊人は勿論、そのことに気付いてはいない。
二人の関係性は、今はまだぎこちないかもしれない。
(でも、いつかはきっと……)
三人分のお茶を持って彼女が裏庭に足を踏み入れるまで、あと三分――――――――――。