君になら任せてもいいかな
式が終わると、晴久が作った料理がテーブルいっぱいに並べられ、立食パーティーが始まった。
日菜子から今回の事情を聞き父親との挨拶も終えた大吾は、誰かを探しているようだ。
「……もしかして、理玖を探しているの?」
それに気付いた透花が、声をかける。
「ああ、そうだべ。さっきから探してるんだが、全然見つからなくて……」
「理玖なら、人の多い所は苦手だから、少し屋敷の中で休むってさっき出て行ったよ。そろそろ戻ってくると思うけれど。……あ、理玖!」
どうやら、理玖が戻ってきたようだ。
「……何。例の話でもしてたの」
「いや、それはまだだけど。……自分で話したらいいのに」
「……君に任せるよ。僕は、飲み物を貰ってくる」
彼はそう言うと、その場を離れていってしまった。
「えーと、じゃあ、改めて自己紹介から始めようかな。今日は、本当におめでとうございます。私は、この屋敷の主で一色透花と言います。あなたのことは、理玖から聞いていました。いつも、庭を綺麗にしてくれてありがとう。あなたさえよければ、これからもここで、庭師として働いてもらえないかな?」
透花の言葉に、大吾は目を見開いて驚く。
「おらが、この屋敷の庭師に……?」
「うん。……これから言うことは、理玖には秘密にしてね。一応、あなたには言うなって言われていることだから」
透花は、声を潜めて話し始めた。
「実はね、理玖も色々忙しくて、一人で庭の手入れをするのが大変になってきていたの。それで、庭師を雇おうかって話をしていたのだけれど、今まで自分が整えてきた庭を急に見ず知らずの他人に託すのはどうも不安みたいで。そんな時に、あなたが現れた。理玖は、あなたにならこの庭をお願いしてもいいって思ったみたい。あなたを庭師として迎え入れたいって、自分から言いに来たの。だからこの話、受けてもらえるとすごく嬉しいな」
「……確かにおらは、庭師として働いてたことがある。だから今回の話は、正直とっても嬉しいことだべ。でもなんで先生は、おらを雇いたいって思ってくれたんだべか……?」
少し考えてから、透花はこう言った。
「……私は理玖ではないから、これが完全な正解ではないと思うけれど。あなたなら、自分が大切にしている庭を、自分と同じように大切にしてくれるって感じたんじゃないかな」
「……そんな風に思ってもらえたなら、すごく嬉しいべ」
それを聞いた大吾の頬は、嬉しそうに緩んでいた。
「では、改めて聞きます。佐々木大吾さん、うちの屋敷で、庭師として働いてもらえませんか?」
「……おう! 先生の大事な庭を、おらがしっかり守るべ! よろしくお願いします!」
「よかった! こちらこそ、よろしくお願いします」
透花と大吾は、契約の証に笑顔でがっちりと握手を交わすのだった。