夢のような時間の始まり
数日前に自分の妻が父との再会を果たしたことなど知らない大吾にとって、今回の出来事はまさに青天の霹靂だった。
しかし、彼に状況を説明してくれる者が現れるわけでもなく、現実は進んでいく。
虹太が奏でるピアノの音に合わせて、父親と腕を組んだ日菜子が入場してくる。
その光景を目の当たりにし、大吾はようやく自分の身に起きていることを理解した。
(これは、おらと日菜子の結婚式なんだべ……)
その通りである。
これは、依頼の”オプション”として理玖と湊人を中心に一色隊が計画した、大吾と日菜子のサプライズ結婚式なのだ。
日菜子は祭壇の近くまで来ると、父親から腕を離した。
小さな声で言葉を交わしてから、大吾の方へと一人で歩いてくる。
「日菜子、すげー綺麗だべ……」
「大吾さんも、一瞬誰だか分からなかったぐらいかっこいいよ」
「へへっ、ありがとな! それにしても、旦那様がなんでここにいるんだべか……?」
「……そのことについてはきちんと説明するね。お父様も、後で話そうって言っていたし」
「だ、旦那様からお話……!?」
「うん。義父と息子として、色々話したいことがあるみたいよ」
「そ、そうなのか……」
二人の話が一段落するのを待つと、牧師に扮した少年が声を発した。
「………………………………。大吾さん、日菜子さん、本日は、おめでとうございます」
その少年は、心だった。
心の第一声を聞いて、透花以外の隊の面々は頭を抱える。
(((((((出だしから、全然違う……!)))))))
透花だけは、小さく吹き出していた。
心はどうやら、覚えていたセリフを全て忘れてしまったらしい。
自分の好きなように、話し始めてしまった。
「これからも、生涯愛し合い、支え合うことを誓えるのなら、花の交換をしてください」
まずは日菜子が、持っていたミニブーケを大吾の胸ポケットに刺す。
次に、大吾が日菜子に花束を渡す。
日菜子はその花束を見て、驚いたように目を見開いた。
「このお花……!」
「お前が綺麗だって言ってた花だ。育ててる人にお願いして、貰うことができたんだべ」
「大吾さん……。本当にありがとう、大好きだよ」
「ああ、おらも愛してるぞ」
「……この通り、二人は今、みなさんの前で愛を誓いました。みなさんが、証人です。これからの二人の人生には、楽しいことばかりではなく、きっと辛いこともあるでしょう。どんな困難にも負けず、愛を貫いてください。……本当に、結婚おめでとうございます」
「「「「「「「「「「おめでとうー!!」」」」」」」」」」
心の言葉が終わると、街の人々が口々にお祝いの言葉をかける。
「日菜子ちゃん、本当に綺麗だねぇ」
「佐々木さん、嫁さんに苦労かけないように、これからもがんばれよ!」
「何か困ったことがあったら、いつでも相談しに来てね!」
「そうそう。二人には、いつもお世話になってるんだから!」
大吾と日菜子は、とても幸せそうに笑っている。
娘夫婦の幸せそうな姿を見ながら、父親は喜びの涙を流していたという――――――――――。