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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第十一話 ベナムールに愛を誓う
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終わりよければ全てよし

「でもお父様、本当によろしかったのですか? 結婚の話がなくなれば、会社が……」

「……ああ、いいんだ。日菜子に恋人がいると知っていれば絶対に断っていたよ。それを知らなかったとはいえ、先方に押し切られ結果的に娘を生贄に差し出すようなことをしてしまった私はなんて情けない父親なんだろうな……」


 彼は元々、この結婚話には反対だったのだ。

 日菜子が幼い頃に妻を亡くしてから、大切に育ててきた一人娘である。

 将来家庭を持つならば、本当に想い合える相手と一緒になって欲しいと思っていた。

 その穏やかな性格につけ込まれ相手方へしっかりと断りを入れられなかったことを、心から悔いている様子である。


「久しぶりの再会中に申し訳ありません」


 二人の会話に水を差したのは、湊人だった。

 その顔には、いつもの営業スマイルが貼り付けられている。


「そのことでお話があるのですがよろしいですか?」

「あ、はい」

「今回、情報をお渡しするのが遅くなってしまったお詫びに相手方の会社についても調べさせていただきました。……その結果、不正な金銭の動きがあることがわかりました」

「あの、それは一体……?」

「表向きは普通の会社のようですが、裏ではあくどいことを色々やっているようです」

「な、なんと……!!」

「出資の話は、もう断られたんですよね?」

「はい……。日菜子が家を出てからになりますが、こちらからお断りさせていただきました」

「それはよかったです。出資を受ければ、あなたも悪事の片棒を担がされていた可能性がありますので。詳しくは、お渡しした資料の裏面をご覧ください」


 父親は湊人に言われた通りに、資料の裏面に目をやる。

 そこに書かれている内容を読み進める内に、彼はどんどん青ざめていった。


「ま、まさか彼の会社がこんなことをしていたなんて……!」

「あなたの会社の経営が傾いたのも、相手方が裏から手を回していたせいです。……そうまでして、お嬢さんを手に入れたかったんでしょうね」


 湊人の言葉を聞き、日菜子の背筋には悪寒が走った。

 父親も、すっかり顔面蒼白である。

 一歩間違えば、この男に自分の愛娘を嫁がせるところだったのだ。

 このような表情になるのも無理はないだろう。


「お二人とも、ご安心ください」


 その二人を、柔らかな声が包み込む。

 聞いているだけで安心するような、不思議な声だ。

 声を発したのは、透花だった。


「この証拠は、既に軍の上層部に提出してあります。男が捕まる日も、そう遠くない未来のことでしょう。そちらの会社への圧力もじきになくなりますし、ましてや日菜子さんに被害が及ぶようなことはありません。一色隊の隊長として、お約束いたします」

「本当にありがとうございます……!」

「なんとお礼を申し上げたらいいか……!」

「いえ、お礼ならば私ではなく彼らに言ってあげてください」


 透花はそう言うと、湊人と、部屋の隅で壁にもたれ掛っている理玖を交互に見た。


「今回の件は、日菜子さんが私の部下である春原理玖の診療所を訪れたこと。そしてお父様が同じく私の部下である二階堂湊人に仕事を依頼してくださったこと。この二つの偶然が重なって起こったことだと思っております。どちらかが欠けていれば、このような再会の方法はとれなかったでしょう。ですので、労いの言葉はどうか彼らにかけてあげてください」

「重ね重ね、ありがとうございました……!」

「お二人のおかげで、私たちは……!」

「いえ、お気になさらないでください。僕は、受けた依頼に全力で取り組んだだけですよ」

「……医者として、体調が悪い人を放っておけなかっただけなので」


 湊人はにこやかに、理玖は不愛想なまま親子に言葉を返す。

 そんな部下二人の様子を見て、透花は小さく笑いを零した。

 こうして親子の再会は、大団円を迎えたのだった。

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