それは、些細なすれ違いだった。
話は、日菜子と父親が再会した日まで遡る。
それは、一色邸の一室で行われた。
まずは、父親に透花と湊人から今回の調査結果を渡す。
その後、理玖が日菜子を連れてくるという段取りである。
日菜子が恐る恐る部屋に入ると、そこにいたのは憔悴しきった父親だった。
娘の元気な姿を確認し、彼はまずほっとしたようなため息を吐く。
しかし、すぐに悲しみで表情を歪めると、深く頭を下げた。
「日菜子、すまなかった……」
「お父様……?」
家を出たことを罵倒される覚悟でやって来た彼女にとって、それは予想外の言葉だった。
父親は、頭を下げたまま話を続ける。
「お前に恋仲の相手がいるとも知らずに勝手に結婚の話を進めたこと、謝らせてほしい」
「……怒って、いないのですか?」
日菜子の言葉に、父親は顔を上げる。
「何をだ?」
「……お父様に何も言わずに、家を出たことをです。それに私は……」
「ああ。話は聞いているよ。結婚もして、お腹には子どもがいるそうじゃないか」
「はい……」
「怒ってなどいないよ。息子と孫が一度にできたんだ。これほど嬉しいことはないさ」
「お父様……!!」
「相手は、うちで働いていた佐々木くんだそうだね。彼ならお前たちを立派に守ってくれるよ」
「はい……!」
「……お腹を、触ってもいいかな?」
「勿論です、お父様」
日菜子は、涙を浮かべながら笑顔になる。
そんな彼女の腹部を、父親も笑顔で優しく撫でた。
こうして二人は、感動の再会を果たしたのだった――――――――――。