それぞれの準備
大吾と別れた理玖のもとに、湊人がやって来る。
「うまく誘導できたみたいですね」
「……かなり強引だったけどね」
二人は微妙な距離を保ちつつ、歩き始めた。
まずは、キッチンへと向かう。
そこには、大量の料理に囲まれた晴久がいた。
「晴久さん、お疲れ様です」
「……準備はどうだい?」
「あっ、湊人くんに理玖さん。はい、みなさんに手伝っていただいたので終わっています。立食なので、食べやすいものを二十種類ほど作ってみました。あとは……」
「晴久さん、さすがですね」
「……まさか、こんなに本格的なものを作ってくれるとはね」
「ありがとうございます!」
二人に褒められた晴久は、顔を綻ばせる。
理玖と晴久はキッチンを後にすると、庭へと向かった。
そこには、柊平、蒼一朗がいた。
少し離れた位置で、ピアノを弾いている虹太の姿も目に入る。
「こちらも、準備は大丈夫そうですね」
「……あのピアノ、サロンから運んだのかい?」
「ああ。椎名がどうしても生演奏がいいと言うからな。隊長の手を煩わせてしまった……」
「おかげで俺らは楽できたけどな。会場のセッティングも終わってるぜ」
「設営のためにかなり色々調べましたからね。喜んでもらえなかったら困っちゃうなあ」
「……今日がいい天気で、本当によかった。花も綺麗だ」
「そうだな。招待客の方々も皆さんお揃いだ。いつでも始められるぞ」
「……にしてもあいつ、さっきからエンドレスで弾き続けてるけど疲れねーのか?」
理玖と湊人は虹太に視線を送りつつ、その場を後にする。
そして、庭の隅へと向かった。
そこには、何かが書かれている紙を見ている心の姿があった。
「やあ、心くん。セリフは覚えられたかな?」
「……君が一番心配なんだけど」
「……大丈夫。多分……」
((不安だ……))
「僕、本番には強いから……」
どうやら、紙の内容を覚えなければならないらしい。
いつも通りぼんやりとしている心は、きちんとそれを記憶することができたのだろうか。
二人は不安を抱えつつもその場を離れると、とある部屋に向かったのだった。