夜桜
透花は王からの褒美について伝えるために、王の側近とともに自分の隊の隊員たちのもとへ向かう。
そして、宴の片付けをしている彼らに声をかけた。
「みんなー! ご苦労様! みんなの今日の働きが素晴らしかったので、王様から褒美として、この後園庭を貸し切る権利をいただいたよー!」
透花の声に、隊員たちが集まって来た。
「お疲れ様でした」
「僕たちの働きが認められて褒美をいただけるなんて、とても光栄なことだね」
「この庭を借りれるってことは、俺たちもお花見していいってことー?」
「でも、もう夜だぜ?」
「……別に夜でも、花見はできるだろう」
「夜桜も、とても綺麗だと思いますよ」
「ゆっくり桜を見れてないので嬉しいっす!」
「……お腹すいた」
反応は様々ではあるが、概ね喜んでいる隊員たちを見て透花はほっとした。
(お花見よりも、お金や宝石がいいなんて言われなくてよかった)
「それで、必要な食料や飲み物を王様が用意してくださるのだけれど、何か欲しいものはある?」
透花がそう言ったところで、花見を終えて帰ろうとしていた一人の男が声をかけてきた。
「おっ、さっきの兄ちゃんたちじゃねーか。なんだ、これから花見か?」
「あ、あなたはさっきの……」
その男は、昼に理玖と晴久が介抱した者だった。
「今日は世話になったな。これ、よかったら貰ってくんねーか? ついつい買い過ぎて、余らせちまってよ……」
男はそう言いながら、結構な量の酒を差し出す。
「こんなにたくさんのお酒、いただいてしまって本当にいいんですか……?」
「……くれるって言ってるんだから、貰えばいいだろう。この男の手元に残して、またあんな風に酔われたらたまったもんじゃないからね」
そう言うと、理玖は男から酒を受け取った。
「貰ってくれてありがとな! じゃあ兄ちゃんたち、花見楽しめよー!」
男は昼間とは打って変わって元気な様子で、手を振りながら去っていった。
その様子を見ていたのか、今日一色隊に助けられた人々が、食べ物や飲み物を片手にどんどん集まって来た。
「今日は本当に助かったよ! これ、うちの肉屋自慢の商品なんだ! 味には自信があるよ!」
「さっきはありがとうございました! これ、少ないですけど差し入れの飲み物です! 隊の皆さんで飲んでください!」
「あっ、おにいちゃんたちだ! おにいちゃん、あめあげるー!」
彼らに物を渡す者は絶えず、あっという間に軽く宴が出来るくらいの食べ物や飲み物が集まってしまった。
透花はその様子を静かに見守ると、横にいた王の側近に伝える。
「せっかく一緒に来ていただいたのに、申し訳ありません。何も用意していただかなくて、大丈夫のようです」
側近はその言葉を聞くと、王宮へと戻って行った。