電子機器に囲まれるのを好む人
理玖が街で大吾を見かけていた同時刻、湊人の元をとある依頼人が訪ねていた。
「失踪してしまったうちの娘を、探していただけないでしょうか……!」
「失踪ですか……。詳しくお聞きしてもよろしいですか?」
「はい……」
男は、沈痛な面持ちで話し始めた。
「私には一人娘がいるのですが、一ヶ月ほど前にうちを出て行ってしまいまして……」
「……失礼ですが、娘さんのご年齢は?」
「二十二です……」
「失踪ということは、娘さんとは連絡が取れない状態であるということですね」
「はい……。結婚が決まったというのに、どこに行ってしまったのか……」
湊人は男の話を聞きながら、愛用しているパソコンを操作する。
「娘さんの失踪の理由に、お心当たりはありますか?」
「そ、それは……」
「……言いにくいようでしたら構いませんよ。こちらで調べますので」
「は、はあ……」
湊人はパソコンのエンターキーを叩きながら、にっこりと笑みを作る。
この笑顔、もちろん営業スマイルである。
「……なるほど。業績が傾いているあなたの会社に、娘さんとの結婚を条件に出資してもいいと言う男が現れた。娘さんは結婚が嫌で、家を出て行かれたんですね」
「こ、この短時間でそんなことまでわかるものなんですか……!?」
「はい。私のパソコンには、あらゆる情報が入っているもので」
この男は、日菜子の父親だった。
失踪してしまった娘を探すために、はるばる田舎から出てきている。
探偵に依頼するよりも情報漏洩などの心配がない軍に相談した結果、情報のスペシャリストである湊人にこの仕事が回ってきたというわけだ。
「それならば、娘を捜していただくことも……!」
「はい、もちろんできます」
「あ、ありがとうございます……!」
湊人はマウスをクリックしながら、新しい情報を探していく。
日菜子は既に結婚しており今までの名字を捨てていること、その相手が屋敷で働いていた庭師の男であること、二人の子どもがお腹にいること、そして――――――――――。
(……へぇ。まさか、春原さんに診てもらっていたとはね)
お腹に新たな生命が宿っていることに気付くきっかけとなったのが、理玖であること。
湊人は先程までの営業スマイルではなく、腹黒い笑みを浮かべた。
「……申し訳ないのですが、正確な情報をお渡ししたいので数日待っていただけますか?」
「勿論です! 何卒よろしくお願いします!!」
情報は既に集まっている。
今すぐ渡すことも可能だったのに、湊人はあえてそれをしなかった。
彼は一体、何を企んでいるのだろうか――――――――――。