新たな生命の宿り
十分ほどすると、日菜子が診療室へ戻ってきた。
その顔からは、感情が読み取れない。
「……どうだった?」
「陽性、でした……」
「……佐々木さん、おめでとうございます。ご懐妊ですよ」
「えっ……!? ど、どういうことだべ!?」
「……彼女のお腹には、君との子どもがいるってことだよ」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
大吾は、嬉しさから雄叫びをあげた。
あまりに音量に、理玖は耳を塞ぐ。
「すごいべ、日菜子! 病気だったんじゃなくて、妊娠してたんだな!!」
「う、うん……」
「おら、もっともっと頑張って働くからな! あー、今から産まれてくるのが楽しみだべ!」
「産んでいいの……?」
涙をぽろぽろと零しながら呟いた日菜子に、大吾はぽかんとする。
「何言ってんだべ!? そんなの当たり前だろ!?」
「でも、うちには子どもを育てるような余裕なんて……」
「おらがなんとかすっから! 日菜子はなーんも心配しないで、元気な子を産めよ!」
「うん……。ありがとう、大吾さん……」
二人は、お互いを労わるように抱き合った。
これ以上夫婦の世界に入ってしまう前に、理玖は声をかける。
「……うちには専門的な設備がないから、悪いけどこれ以上は何もしてあげられない。なんとか資金を工面して、出来るだけ早く産婦人科に行って」
「はい。先生のおかげで妊娠に気付くことができました。本当にありがとうございます」
「ありがとうごぜーます!!」
「……別に、検査薬を渡しただけだよ。医者としては特に何もしてない」
「でも、それがなかったらおらたちは妊娠に気付かなかったべ!」
「大吾さんの言う通りです。あの、今日の代金は……」
「……お金はいいから」
「先程ここに連れてきてくれた方もそう言っていたのですが、本当にいいのですか……?」
「……ああ」
「でも、検査薬までいただいたのに……」
「……本当に気にしなくていい。うちの診療所に妊婦なんてまず来ないから、ここにあっても使われなかっただろうし。そんなことより、早く家に帰って体を休めた方がいい。安定期に入るまでは、流産する可能性も高いからね」
「流産……」
「そ、それはダメだべ! 日菜子、帰ろう!!」
「え、えぇ。そうね。先生、本当にありがとうございました」
「ありがとうごぜーました!」
「……いえ。お体に気を付けて、元気なお子さんを産んでくださいね」
二人は理玖に深くお辞儀をすると、診療室を出て行く。
ふらつく日菜子の体は、大吾によって支えられていた。
理玖は彼らを見送ってからしばらくすると、大吾に渡すと約束した花の様子を見るために再び庭へと戻ったのだった――――――――――。