この薬は、手だけではなく心にも効果があるでしょう。
宣言通り、理玖はすぐに戻ってきた。
先程までは持っていなかった小瓶を、大吾に手渡す。
「……はい」
「これは……?」
「……手荒れによく効く軟膏だよ」
彼は、隣の薬を保管している部屋にこれを取りに行っていたのだ。
「薬なんて、おら、金が……!」
「……君の手は、大切な奥さんを守るための手なんだろう。もう少し、大事にしなよ。お金はいらない。その薬はあげるから」
更に理玖は続ける。
「……それで、奥さんの誕生日はいつなの」
「ら、来週の日曜日だべ……」
「じゃあその日、花を取りに来るといい。用意しておくから」
理玖の言葉に、大吾は目驚きで目を丸くした。
「ほ、本当にいいんだべか!?」
「ああ」
「先生、ありがとうごぜーます! 今は手持ちがないけど、必ず働いて代金を払うからな!」
「……お金はいらないよ」
「へ……?」
「僕は別に花屋じゃない。だから、お金はいらない」
「でも……」
「……僕がそれでいいと言っているんだから、いいんだよ。君、花が欲しくないのかい?」
「ほ、欲しいべ!」
「なら、黙って貰いにくればいい」
「……本当にありがとうごぜーます! この恩は、おら絶対一生忘れねーべ!」
大吾は理玖の両手を握ると、感謝の気持ちを表すように上下に振り始めた。
(僕って、こんなにお人好しだったかな……)
大吾に手を振られながら、理玖は居心地が悪そうな表情を浮かべるのだった――――――――――。