先生、急患です!
「あの、おらたちお金がないんだべ……」
「本当にいいんでしょうか……?」
「大丈夫っすよ! さぁ、ずずいっと入っちゃってください! じゃあ、俺はこれで!」
颯が診療室に連れてきたのは、男女の二人組だった。
見るからに、女性の体調が悪そうだ。
颯は二人を無事に送り届けると、そのまま診療室を出て行く。
その慌ただしい様子に、理玖は声をかけることすらできなかった。
「……ここに座って。体調が悪いのは、そちらの女性の方で間違いない?」
「あ、はい……」
「君は、彼女の恋人?」
「は、伴侶だべ!」
「……そう」
どうやらこの二人は夫婦のようだ。
理玖は二人が椅子に座ったのを確認すると、問診を始めた。
「まずは、名前を教えて」
「佐々木日菜子です」
「年齢は」
「二十二歳です」
「いつ頃から体調が悪いの」
「一ヶ月くらい前からでしょうか……」
「具体的には」
「微熱が続いていて、たまに嘔吐もしてしまいます……。それと、なんだか眠くて……」
「先生! うちの日菜子はなんかの病気なんだべか!? おら、心配で仕方ないべ!!」
それまでソワソワしてはいたが静かにしていた夫が、急に大声を出す。
理玖は表情を変えずに、淡々と言い放った。
「……彼女は体調が悪いんだ。心配なのはわかるけど、大声を出すべきじゃない」
「そ、そうだよな……。悪かったべ……」
「ううん、大吾さんが私を心配してくれてるのはわかってるから……」
どうやら男の方は、大吾という名前のようだ。
理玖は彼を見た瞬間から既視感を感じているのだが、特に気にせず質問を続ける。
「……言いにくいことを聞くけど、月経はちゃんと来ている?」
「いえ、ここ最近は……。環境に変化があったので、そのせいかと思うのですが……」
理玖はため息を一つ吐くと、棚から長方形の箱を取り出し日菜子に渡す。
「……うちには専門的な機具はないから、悪いけどこれを使って自分で検査してきてくれる。入口の近くにお手洗いがあるから」
「………………………………!! わ、わかりました! 大吾さん、私ちょっと行ってくるね」
「あ、ああ……」
理玖から渡されたものに心当たりがあったのだろう。
日菜子は大吾に声をかけると、箱を片手に診療室を出ていった。