君が、もっと可愛くなる魔法をかけよう。
翌日の朝、約束通りに美海はやって来た。
「……はやてにい、起きてる?」
控えめに、颯の部屋のドアをノックする。
「美海ちゃん、おはよーっす! もちろん起きてるぜ! 入れよ!」
「はやてにい、朝から元気だね! しんにいなんていっつも半分寝ながら朝ご飯食べてるのに……」
「心は、確かに朝は苦手そうだよなー! 俺は強いぞ! 毎日スッキリ目が覚める! 時間がないと、髪の毛セットする時間がなくなっちまうだろ?」
「……毎日寝癖つけて学校行くしんにいに、はやてにいのつめのあかをせんじて飲ませてあげたいよ」
「いくら心にでも、爪の垢を飲まれるのは嫌だなー。ほら、ここに座れよ!」
「うん!」
颯は美海を出迎えると、自室の鏡台の前に案内した。
ちなみに、美海が言った諺は伝わっていないらしい。
颯は、あまり頭がよろしくないのだ。
美海がきちんと腰かけたのを見て、声をかける。
「髪型のリクエストはあるか?」
「あのねあのね、ネコさんみたいにできる……?」
「ネコ……? ああ、猫耳ヘアのことか?」
「うん! それ!」
美海は、元気に答えた。
「もちろん! 今日の美海ちゃんの服装にも、よく似合うと思うしな!」
美海は、桃色の水玉柄のポンチョに、黄緑色のフリルパンツを合わせている。
「じゃあ、やっていくぜー!」
「はーい!」
颯は櫛を持つと、美海の髪に手を通し始めた。
彼のいつもの言動とは結びつかないほど優しく繊細な手つきに、美海は驚きを隠せない。
「はやてにい、めちゃくちゃ慣れてるね!」
「そうか? 透花さんの髪の毛をたまにセットさせてもらってるからかもしれないな!」
「え!? とうかねえの髪って、はやてにいがやってるの!?」
「おう! 長くて綺麗な髪だから、色々アレンジのし甲斐があるんだ!」
「えー! すごーい!!」
こうして和気藹々とした雰囲気でおしゃべりをしながら、美海の髪は着々とセットされていく。
あっという間に、リクエストの猫耳ヘアの完成である。
「……こんな感じかな! この髪型だと、昨日買ったシュシュとかは使えねーけど……」
「これも使えないかなぁ……?」
美海がおずおずと差し出したのは、白のリボンピンだった。
もちろん、昨日颯と一緒に購入したものである。
「おっ! これならいけるぜ! 耳のところにつけて……っと! うっし! 完成だ!」
「すごーい! かわいーい! みうじゃないみたーい!!」
「へへっ! お気に召しましたか、お姫様?」
「うん! はやてにいありがとう!!」
鏡に映るいつもと違う自分を見て、美海は嬉しくて仕方がない様子だ。
「せっかくだし、心にも見せてこいよ!」
「はーい! はやてにい、ほんとにありがと! また、朝ご飯の時にねー!」
美海はぴょんと椅子から跳び下りると、そのまま走って部屋を出て行った。