おねえちゃん? おにいちゃん?
「ユリちゃーん! 来たぜ!!」
「あら、いらっしゃい颯ちゃん」
颯は、とある服屋に心と美海を案内した。
彼がいつも服を買っている、馴染みの店なのだ。
「あんた、この間新作買ったばかりじゃないの。そんなに買い物ばっかして大丈夫なわけ?」
「今日は、俺の買い物じゃないんだよなー! じゃじゃーん! 友達を連れてきました!」
「……こんにちは」
「こ、こんにちは……」
「結城心くんと、その妹の美海ちゃんだ!」
「こんにちは。私の名前はユリよ」
「ユリちゃんはこの店の店長さんなんだぜ!」
「颯ちゃんはお得意様なのよ。それにしても、友達と一緒に来るなんて珍しいじゃないの」
「こいつらの服を選びに来たんだ!」
「……なるほどね。あんたら颯ちゃんの友達にしてはパッとしないもんねえ」
ユリは、二人の服装をマジマジと見る。
心は特に気にしていないが、美海は頭の中がパニック状態だった。
(はやてにいがおしゃべりできるってことは、この人は男の人なの……!? 見た目じゃよくわかんないけど、しゃべり方は女の人だよね……? 女の人でも、とうかねえみたいにおしゃべりできる人もいるのかな……?)
この人物は、いわゆるオネエと呼ばれるものだった。
普通の女性ならば、颯がこのように気軽に会話ができるはずがない。
しかし、美海はそういう人種に今まで出会ったことがないのだ。
混乱するのも無理はないだろう。
「あ、あの! ゆりおねえちゃん!」
美海は、口調や名前から”彼女は女性である”という答えを導き出したのだ。
その言葉を聞くと、ユリは顔を綻ばせる。
「……おねえちゃんって、もしかして私のこと?」
「う、うん……」
「きゃー! 何よこの子! 超いい子じゃない!!」
ユリは美海を抱き上げると、喜びのあまり頬ずりをした。
「う、ジョリジョリする……」
「もう一回呼んで!」
「ゆ、ゆりおねえちゃん……」
「私は嬉しいわ! 今日は特別にサービスしちゃう!」
「え、マジで!?」
「ええ。格安にしてあげる。欲しいものなんでも持っていきなさい!」
「よっしゃー!! じゃあ、早速選びにいこうぜ!」
初対面で女性扱いされることなど、今までの人生では皆無だったのだろう。
そんなユリにとって、美海の言葉は嬉しいものだった。
「あ、美海ちゃん。その人男だからな!」
「お、男の人……?」
「おう! 本名は五十嵐由莉! ユーリって呼ぶと怒るから、俺はユリって呼んでんだ!」
「颯ちゃん、あんたって子は……」
ユリ、改め由莉は美海を放すと、後ろから颯の首にホールドを決める。
「せっかく人がいい気分になってんのに、余計なこと言うんじゃないわよ!」
「え!? なんで!? 本当のこと言っただけじゃん!!」
「生意気なことを言うのは、この口かしらねえ~?」
「ちょっ! ユリちゃんギブギブ! マジで絞まってるって!」
「は、はやてにい……」
「美海ちゃんはなーんにも気にしなくていいのよ~♪」
「でも……」
「颯ちゃんは私とお話があるから、先に二人で服を選んでらっしゃいな」
「……はい。美海、行こう」
「う、うん……」
笑顔で促された兄妹は、そそくさとその場を後にする。
その後店内には、断末魔の叫びが響き渡った――――――――――。