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命の種




結婚して二十五年。

子宝に恵まれ無い夫婦のお話し。





  ある日、別の神様が言いました。


『貴方は沢山の人間を幸福へと導く事が出来ました。今からこの種を扱える様に成ります。でも気を付けて下さい。今までの種はどの様に使っても失敗しても、差ほど問題には成りませんでしたが、この種は命その物を扱えるのですから失敗すればそれ相応の罰も待っています。くれぐれも注意して下さい。』


 神様は頷きました。


 手の中に光り輝く“命の種”が有りました。それを、神様は大事に大事にしまいました。それから何年か経ちました。







「有る物なら、命の種が欲しい。」


 切実な叫びが神様の耳に届きました。神様は最近その種を預かり、どうした物かと悩んで居たのでした。


 その夫婦は互いに十六歳で出逢い、恋をして二十歳で結婚しました。貧しくて贅沢は出来ませんでしたが、二人はとても幸せでした。


 二人は、子どもが出来るのをとても楽しみにしていましたが、中々子宝には恵まれ無ませんでした。



「子どもはまだ出来無いの?」


 孫を楽しみに待っている両親や、親戚達や、近所の人々に顔を合わせる度に聞かれました。その内にそんな声がストレスに成って行き、余り出歩かなく成りました。


 十年が過ぎた頃から、不妊治療の為に病院に通いました。それでも子どもは出来ませんでした。不妊治療はとても辛く過酷な物でした。


「子どもは天からの授かり物だから、やっぱり自然に待とう。」

 奥さんが余りに辛そうだったので夫はそう言いました。二人は不妊治療を止めました。でも、子どもを諦めた訳では無く。風水を試したり、子宝に関する神社なら、どんなに遠くても二人で出掛けて行きました。



 結婚して二十五年が経ちました。早く子どもを産まなければ、もうすぐ産め無い年齢に成ってしまいます。


「二人だけの楽しみを見付けて行こう。子どもが居なくても幸せに暮らしている人達は、幾らでもいるんだから。」


 夫は、もう諦めてしまった様でした。



 世の中には、折角授かった子どもに食事を与えず餓死させたり。暴力を振って、幼い命を奪ったり……そんな人達が数多くいます。そんなニュースを見るたびに二人は悔しくて堪りませんでした。


「私は、そんな事はしない。授かった命ならば、大事に大事に育てるのに!」


 この世の中は、何と理不尽に出来ているのだろうかと、二人は嘆きました。



 そんな二人の声を聞いて、神様はこの夫婦に“命の種”を与える事にしました。神様は、夢枕に立ちます。


『この“命の種”をあなた達に授けます。どの様な命が産まれても、最後まで投げ出さず大切に育てて下さい。』


 不思議な夢でした。


 余りに子どもが欲しいと願ったので、その様な夢まで見てしまったのだと二人は思いました。


 その夢を見てから二ヶ月が過ぎた頃、奥さんは自分の変化に気付きました。


 甘い物が食べたくて仕方有りません。料理の時にお肉を触りたく有りません。何だか腰の辺りが太く成った気がします。その内に、食べ物の臭いを嗅ぐと気持が悪く成って来ました。


 これはもしかしてと思った二人は病院へ行きました。


「おめでとう御座います。二ヶ月目です。」


 やっと、やっと、子宝に恵まれる。二人は喜びました。それから夫は妻を今まで以上に労りました。


 買い物も、お風呂掃除も、部屋の掃除も、ゴミ出しも、全て夫が引き受けました。


 妻はどんどん容態が悪く成りました。肉も魚も食べられません。ご飯の炊ける臭いを嗅ぐと気持が悪く成ります。果物は、美味しそうだなと思って食べても、全て吐き出してしまいました。


 豆腐、素麺、白いご飯。白い物しか食べられ無いのです。これでは栄養が取れません。夫は心配に成り病院へ連れて行きました。


「体重が減っていますね。でも、赤ちゃんはちゃんと育っていますよ。つわりは四ヶ月に入ったら、大分落ち着いて来ますけど。心配でしたら、一週間位入院しますか?」


 と言われました。


「心配だから、入院させて下さい。」


 自分が留守の間に何かあっては大変なので、夫は直ぐ様そう言いました。


 一週間が経ち妻は退院しました。つわりが落ち着いてから、お腹には何の変化も無い時期が有ります。本当にこの中に赤ちゃんが居るのか、生きているのかと不安に思った事も有りましたが、五ヶ月も半ばの頃に“トン”と、お腹の中から蹴られた気がしました。


 あっ……もしかして、今のが胎動? 妻は嬉しくて仕事中の夫に電話を掛けました。


 その夜、夫は仕事が終わると超特急で家に帰り「ただいま」の挨拶も忘れ、ソファーに座る妻のお腹に耳を押し付け、じっと胎動を待ったのでした。


 何分待っても動いてくれません。ご飯は? と、聞かれてもまだ良い。と言って、ずっと妻のお腹にくっ付いたまま離れようとしません。


 そうして二時間が過ぎた頃に、“トン..トン”と、中から押される感じがしたのです。夫は嬉しくて、嬉しくて。良かった……良かった……。と言って喜びました。


 夫にしてみれば、まだ妻のお腹に赤ちゃんが居るという実感が湧かなかったのです。今日初めて、妻のお腹に赤ちゃんが居るんだと感じたのです。


 日を追うごとに赤ちゃんの動きは活発になり、胎動も目に見えて分かる様に成って来ました。夫は嬉しくて仕方有りませんでした。妻も幸せでした。自分が、小さな命を包み守っているんだと云う喜び。どう逆立ちしても、この感覚は男性には味わえません。


 病院の先生からは注意もされました。


「只でさえ妊婦というのは、危険が付き物です。お腹が出て来て、足元が見え無いという様な危険だけでなく、血液の量も増えるので、心臓に負担が掛かる事。赤ちゃんによって、内蔵が圧迫されるという事。それに貴女は、初産で、高齢出産に成ります。少しでもおかしいと思う事が有ったら、直ぐに来て下さい。」


 と、念を押されました。


 安定期と言われる時期を無事に乗り切り、八ヶ月に入りました。今まで順調に過ごして来たのに、ある日突然腹痛が有りました。慌てて夫婦は、病院へ行きました。


「切迫流産の恐れが有るので入院しましょう。」


 と、又、入院する事に成りました。


「無事に産まれるまで、入院させて下さい」

「そこまで重症では無いので、一週間程で帰れますよ。」


 心配性の夫に医師はそう告げました。一週間経って妻が退院しました。夫は、今まで以上に妻を労りました。


 九ヶ月に入ってすぐに腹痛が有ったので、又病院へ行きました。


「赤ちゃんはまだ千六百グラムしか有りませんので、出来るだけ長くお腹の中で、大きく育てましょう。出来るだけ安静にする様に。」


 と言われました。妻は、必要最小限の動きしかせずベッドの中で、赤ちゃんの為に只々じっとしているのでした。


 それでも、九ヶ月と二週で 陣痛が始まってしまいました。病院から連絡を受けて、夫は職場から飛んで来ました。


 痛がる妻の腰を擦ります。陣痛が始まってから八時間が経っていました。夫は、代われる物なら代わって上げたい。痛がる妻を見てそう思いました。自分には出来る事は何も無いと、おろおろするばかりでした。


 やっと、分娩室に運ばれて行きました。どうか無事に赤ちゃんが産まれますように。妻がこれ以上痛い思いをせずに、無事に産む事が出来ます様に……。夫は、祈る事しか出来ませんでした。


 二時間が過ぎた頃でした。


「おぎゃあ ‥ おぎゃあ ‥ おぎゃあ ………」



 病室の中に、元気の良い声が響きました。


「産まれた!!」


 夫は、思わず叫びました。


 看護師達の動きが、慌ただしく成って来ました。夫は心配に成りました。


「何か有ったんですか?」


「奥様の出血が止まりません。」

 

「奥さん、寝てはいけませんよ。起きて下さい。」


「起きて下さい!」


 中から声が聞こえます。眠たくて堪らない奥さんを、看護師達が無理矢理起こしているのです。


「出血が多いので、寝ないで下さい。」


「……はい……」


 奥さんは頭がもうろうとしました。


「……赤ちゃんは?……私の……赤ちゃん……」


「産まれた時は臍の緒が首に巻いていましたが、大丈夫ですよ。少し小さかったので、今は保育器に入っています。」


 夫も、直ぐに赤ちゃんを抱かせて貰えるのかと思っていたのでとてもがっかりしました。


 看護師に連れられ、一足先に赤ちゃんの元へ行きました。保育器の中の赤ちゃんは、想像したよりもとても小さく、本当に サルの赤ちゃんみたいにくしゃくしゃで、とてもとても愛しかった。


「……あれが…… 私達の赤ちゃん……」


「妻は……妻は、無事ですか?」


「はい。大丈夫ですよ。今は病室へ移られて、お休みに成っていますよ。」


 夫は病室へ急ぎました。妻は眠っていました。長い時間痛みに耐え疲れてしまったのでしょう。夫は妻の髪を撫でました。


 今度は、目覚めた妻と一緒に 赤ちゃんの元を訪れました。


「大きく産んで上げられ無くて ご免ね。ご免ね……」


 保育器の中の小さな赤ちゃんにそう言って、妻は涙を流しました。


 そんな妻に夫は「産んでくれて有り難う。」と言うのでした。


 妻は一週間で退院出来ましたが、赤ちゃんはまだ保育器の中です。お乳を届ける為に、毎日病院へ通いました。産まれてから二週間で赤ちゃんは退院出来ました。


 夜泣き。夜中の授乳。オムツの取り替え。二人は睡眠不足に成りながらも、協力し合ってこなしていきました。


 初めての寝返りに感動して涙が溢れました。初めて熱を出した日は寝ずの看病をしました。


 初めてのハイハイはビデオカメラに収める事が出来ました。初めての言葉。初めて立った日。初めての一歩……。夫婦は、沢山の初めてを経験しました。


 子どもは、沢山の笑顔を夫婦に届けました。そして幸せに暮らしていきました。






 私の植えた“命の種”が、枯れる事無く育ってくれて良かった。あの家族はこれからも、沢山の初めてを経験し。これから沢山の幸せが、待っているのでしょう。



 ずっと、ずっと、幸せに……


 神様は、そう祈るのでした。






おしまい。








自分が働いていた頃、結婚して10年、15年、7年 経って居るのに、子どもに恵まれ無いと言う人が 本当に多かったです。



今は子育てに追われ、子どもを叱ってばかりだと言う人達に、赤ちゃんが出来た時の喜びを思い出して欲しくて書きました。

子どもを産む事は、命がけです。

皆、愛されて産まれて来たのです。





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