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ことだまの種



 跡継ぎとして甘やかされた男の子のお話し。




 その子は、四千グラムで産まれたとても大きな男の子でした。 三番目に産まれた長男でした。田舎で男の子が産まれるという事には意味があります。


 やっと産まれた跡継ぎに、両親も祖父母もそれはそれは喜びました。


 その子は大事に大事に、祖父母に甘やかされて育ちました。祖父母には大事にされている実感は有りましたが、父親は会社員でしたので、朝は早く出社し夜遅くに帰って来る生活を送っていました。その子は父親の愛情に飢えていたのです。


 母親はそんな気持を察して、父親の分も遊び相手に成っていました。その子が成長するにつれ、母親は良い事は良いと、悪い事は悪いと、躾の為に叱る事が多く成って来ました。


 その子が社会に出た時に、ちゃんと生活して行ける様にとの思いで叱るのですが、その子はまだ幼いので、母親が意地悪をしていると思いました。


 その子は、叱られる事が嫌で祖父母の元で生活する事が多く成って来ました。甘やかすだけでは子どもは駄目に成ってしまうと解っていましたが、夫の両親なので、余り強くは言えません。その子は我が儘に育って行きました。


 そんなある日、母親が四人目の子どもを妊娠したのです。その子とは年齢が六つも離れています。両親も祖父母もとても喜びました。


 お父さんもお母さんも、お爺ちゃんもお婆ちゃんも、皆、皆、赤ちゃんに取られてしまう。その子はそう感じました。



 母親が寝転んでいると、わざとお腹に体当たりをしました。母親に対しそんな行動を取るその子を、祖父母が叱る様に成りました。少し前まで何をやっても叱られ無かったのに、掌を返した様に自分に厳しく成りました。


 「どうして?」僕は今までと何も変わら無いのに、何で急に怒られる様に成ったの?


 なぜ急に突き放されるのか判りませんでした。ただ解った事は、僕だけに注がれていた愛情は、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんに全て持って行かれるという事でした。



 やがて小さな男の子が産まれました。弟だったという事でその子の憎しみは又、大きく膨らみました。


 その子は、両親も祖父母も手におえない位暴れる様に成りました。皆こっちを見て! 僕を見て! 愛情をちょうだい。赤ちゃんだけ抱か無いで。心の中が悲鳴を上げます。でも、誰もそんな思いには気付きませんでした。


「はぁ~。又、あの子は暴れてる。」


「又、いつもの癇癪かんしゃくが始まった。」


 それ位にしか思っていませんでした。そんなある日の事でした。父親の転勤で遠い場所へ引越す事に成ったのです。その子はとてもショックを受けました。


 大好きな祖父母ともう会え無く成る。大好きな友達と離れなければ成ら無い。その子は年長さんでした。四月からは、新一年生です。引越すのは、三月でした。不安が大きくその子を包みました。


 初めての土地、初めて行く小学校、知ってる人は一人もいない。そんなところに行かなければ成りません。


「行きたく無い。行きたく無い。行きたく無い!」


 その子は、泣き叫びました。でも六歳の子どもにはどうにも成らなくて。その日はやって来ました。


 不安だったのはその子だけじゃ有りませんでした。母親も田舎を離れた事なんて無かったので不安でした。祖父母にべったりで、自分になつかないその子を、どう育てて行けば良いのか全く解りませんでした。


 自分の子がやっと手元に戻って来るのに、どう接すれば良いのか解ら無かったのです。


 母子の思いをよそに、引越は終わりました。


 子ども達は、アパートの子ども達と直ぐに打ち解けて、友達に成りました。学校への道を案内してくれたり、遊びに誘ってくれたり、とても優しくしてもらいました。


 母親も早くこの土地に馴染もうと、赤ちゃんを連れて外に出掛けました。お陰で早く溶け込む事が出来ました。でもその子の反抗は激しく成るばかりでした。


 癇癪を起こして、家中の物を投げました。アパートの床はボコボコに成りました。外で赤ちゃんを遊ばせていると、自転車に乗りスピードを上げて、わざと突っ込んで来るのです。何度も何度もそうしました。


 朝もその子だけが言う事を聞かないので、毎朝ケンカをしました。その子は、泣きながら学校へ行きました。


 母親も子どもを送り出した後に、酷い言葉を浴びせてしまった事を後悔して、涙するのでした。


 そんな事の繰り返しで、母親は疲れ切っていました。母親の精神は、壊れそうに成っていたのです。


 そんな時、神様が夢枕に立ちました。


『子育ては大変ですね。苦しくて辛いのは、自分だけだと思っていませんか? それは違います。その子は、自分の事を誰も解ってくれ無い。愛してくれ無いと思っているのです。あなたと同じ様に苦しんでいるのです。抱き締めて欲しいのです。』


『あなたに“ことだまの種”を植えましょう。これからは、あなたの言葉通りに成ります。くれぐれも気を付けて下さい。駄目な子と言い続ければその通りに。良い子と言い続ければ、その様に育って行きます。言葉は大切な物です。でも、一番大切な事は抱き締めて上げる事です。』


 母親は目を覚めました。日頃からよく夢を見ます。内容も大抵覚えていました。でも、夕べの夢は、何というかリアルで“夢”と云う感じがしませんでした。


 自分だけが苦しい訳では無かった。子どもも同じ様に苦しんでいた……。目から鱗が落ちた気分でした。


 それから母親は、嫌がるその子を事あるごとに抱き締め。


「今日は、遅刻し無かったね。偉いね。」


 と、誉める様にしました。駄目だった事を、なじるのでは無く、十の内九つ悪くても、たった一つの良かった事を、誉め千切りました。


 その子が悪い事をして、怒りで叩きたく成った時も


「ご免なさいと言うまで止めないよ」


 と、その子を思い切りくすぐりました。そうすると、笑い泣きしながら「ご免なさい。」と言うのでした。


 次第にその子の顔から、憎しみが消えて行きました。頑なだった心が、ちょっとづつ綻び始めました。


 一年経った頃、母親は言うのです。


「去年のあなたより、今年のあなたの方が、凄く良い。素直に成ったし、忘れ物も無く成った。遅刻も、余りし無く成ったね。」


 と、誉めます。


 毎年、去年より今年の方が良いと誉めました。その子は、言葉通り。素直で真面目な青年へと成長して行きました。






 “ことだまの種”は、悪い言葉を言い続ければ、悪い方へ進んで行くのです。


 子どもを育てると言う事は、人間を育てると言う事です。子どもを正しく導く為には良い言葉を選ばなければ成りません。この母親は、子どもを上手く導く事が出来ました。良かったですね。






おしまい。








この話しは、息子をモデルにしました。

本当にあの頃は、地獄でした。

こんな経験をしたので、自分は 言霊を信じます。

きっと、言葉で自分自身を導いて居るのではないかと思います。

ポジティブな、 良い言葉を成るべく使って、 幸せに近付けたら良いですね。





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